境界の教会/キョウカイ×キョウカイ

宇佐見きゅう

探偵の尋問タイム

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 探偵の怒声で呼び出され、再び八人が聖堂に勢揃いした。
 皆に混じって入室しながら、緋冠ひかむりは探偵の背中に恨めしげな視線を向けた。
 先を切って入室した鬼無が、一之瀬に怒鳴りかかる。


「おいこら一之瀬! 洗いざらいはいてもらうぞ」
「ちょっ、何よいきなり。何のことかしら?」


 一之瀬は首を傾げた。メイドの足元ではカルヴィニアが目を覚ましていた。その口元には白いスカーフが噛ませられている。彼のダミ声を聞かなくて済むと思うと、それだけで救われた気分になる緋冠だった。


 鬼無と同チームの棚田以外、誰もまだ説明を受けていなかった。仕事を押し付けたり、召集を掛けたり、毎回他人を振り回して傍若無人極まりない。


 祭壇の前で睨み合っている鬼無と一之瀬に、皆の視線が注がれる。
 鬼無は、握り締めていた黒い紙を全員に見せ付けた。


「推理を始めるぜ。踊らされるのはもうおしまいだ」
「何その紙?」美玲が訊ねる。「それが証拠なの?」
「詳しいことは一之瀬が知ってんじゃねえかな。どうだよ、メイド」


 一之瀬は突きつけられた紙を一瞥し、小さく拍手した。


「お見事。そーよね。鷲尾神父の立場ならこういう保険も打っとくよね。私が使えなかったときに他の人に教えられるように」
「自分でゲロするか、オレに苛められるか、好きな方選べ」
「鬼無さんにお任せするわ。あたし、べしゃりは得意じゃねーし」


 そう言って後ろに退く一之瀬。しばらくメイドを睨みつけていた鬼無だったが、舌打ちしてこちらに振り向いた。


「ったく、とっとと終わらせるぞ」


 鬼無がその鋭い視線を向けたのは、タルボットだった。


「『二周目』で、ガロッサ・タルボットはのちに障害になるだろうと見越して、オレを殺害した。話があると資料室に呼び出して、二人きりになったときにだ。そしてオレを殺したあと何食わぬ顔で聖堂に戻り、いかにも大発見をしたかのように適当な物語をでっち上げて、時間を稼いだ」


 前触れなく始まった殺人事件の経緯に、阿誰が声を上げた。


「……ちょ、何を言っているんですか。博士があなたを殺したって……、だって、あなたそこに生きているじゃないですか」
「話をちゃんと聞けよ、『二周目』だって言っただろ。美玲のタレコミがなけりゃ、こっちでも同じことが起きたかもしれねえがな」


 鬼無は座っているタルボットを睨みつける。


「事件はそれで終わっちゃいねえ。タルボットのジジイはオレの死体が見つかったあと、真実に肉薄した棚田も殺害し、そのあとで残った奴らも殺そうとした。痺れるなおい、邪魔者は皆殺しか? 頭のいい奴ってのは、自分の完璧な計算が狂わされるのが何よりも嫌なんだろうな。ヒステリックな野郎だぜ」
「それは偏見というものだ。愚か者でも、己の足りない頭で必死に考えた計画が狂わされれば怒り狂う。たとえ、杜撰さゆえの自滅だったとしてもね」


 殺人者だと名指しされているのに、タルボットに慌てる様子はない。肯定はしないが否定もしようとしない。いったい彼は何を考えているのか?
 タルボットは失笑を浮かべた。


「それで? 暴虐の限りを尽くした『その』私は、そのあと成敗されたのかな? まんまと目的を果たしたのかな? どちらでもいいことだ。こちらには何の影響もない。何の関連性もない。そんなもので私を責め立てたいのなら、とんだ的外れだ」
「ああ? シラを切るつもりか? てめえは人を殺したんだよ」
「私にそんな記憶はない。前世が悪人だったら断罪されるのかね? 美玲君だけが見た夢の記憶を証拠に、犯人だと言われても、正直困ってしまう。そもそも美玲君の記憶力は確かなのかね? 彼女が勘違いしていないという証拠は? いいや、美玲君の予知能力を疑うわけではないが、それだって完璧ではなかろう」


 タルボットの声は穏やかで説得力を持っていた。まるで正論に聞こえる。タルボットを締め上げるのには、これでは足りないのだ。
 タルボットの煮え切らない態度のせいで、鬼無は攻めあぐねている様子だ。
 しかし、鬼無はあっさりと引き下がった。


「ふん、まあいい。てめえはおまけだ。本番はこっからだよ」


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