境界の教会/キョウカイ×キョウカイ

宇佐見きゅう

教会行動(三周目)

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「おや、お帰りなさいお二人とも。首尾はどうでしたか?」
「うぜえ、こっち見んじゃねえチンカス。話す気失せるわ」


 棚田が聖堂に戻ってきた鬼無と美玲ににこやかに挨拶すると、返ってきたのは心地よささえ感じる罵倒だった。実に職人芸。老練古狸とのやり取りで辟易した心が洗われるようだった。棚田はマゾヒストであった。


 鬼無が祭壇の前に立って説明した。彼女は途中の詳細を省いて、『二周目』に悪魔が召喚されてしまったという結末を話し、それを踏まえて二つの疑問を提起した。


「つまり、契約者が死んでも悪魔との契約は継続するのか。結界の解除方法は、本当に悪魔が取り付いた契約者を殺すことなのか。はっきりさせてえのはこの二点だ。どうだい、あんた詳しいんじゃんねえのか? シスターさん」


 鬼無は、離れた席に座っている緋冠に振り向いた。


「分かりません」


 緋冠は静かに答える。


「死後も継続する契約などは聞いたことがありません。しかし、仏教に、死んでから契約が果たされる秘術があると小耳に挟んだことがあります。結界に関しては、鷲尾神父が組み込んだもので、詳しくは知らされておりません。彼が存命ならば、聞けたのですが」


 鬼無は、床に転がされているカルヴィニアを指した。


「こっちのデガブツは? 悪魔についての専門家なんだろ?」
「起こしますか? まともな会話が期待できるとは思えませんが。共通の目的があろうとレオ神父は協力の道を考えません。主以外に従おうとしないのです」


 緋冠は気が進まないようだ。タルボットがそこに意見する。


「神父を起こすのはあとにしよう。その前に私たちでできる限り調べておきたい。神父にとぼけたり、嘘をつくことも考えられるからな」
「なるほど? 先にあちらの部屋を調べようということですか」


 棚田がうきうきと乗っかる。一見タルボットの太鼓持ちのようだが、そう思われても恥じるプライドを持ち合わせていないのが棚田功奨なのである。
 鬼無が腕を組んでこちらを睥睨する。


「オレもそれを提案しようと思っていたところだ。四つのチームに分けようと思う。事務室と資料室と倉庫を調べるのが二人ずつの三チーム。ここに残ってデカブツを見張るのが一人。それでいいか?」


 棚田は嫌味たらしく口を挟んだ。


「待ってください。どうしてあなたが取り仕切っているのですか? 美玲さんに選ばれたからという理由だけでは納得がいきません。美玲さんのことは信じますが、鬼無さん、あなたが敵でないという証明が必要なのではないでしょうか?」


 ぺらぺらと適当なことを重ね立てた。それを鬼無はばっさりと断ち切った。


「必要あるか、んなもん。つーか、証明できるわけがねえ。疑いてえなら好きに疑え。証拠がねえのはてめえらも同じだろ、ドブネズミが。オレはできるだけ客観的に意見を提案しているだけだ。それに従いたくねえってんなら、そっちもマシな意見を出してみやがれ。そのアイデアが良けりゃ、従ってやんよ」
「なるほど? 反論は認める。その代わり代替案を出せ、と。生憎、僕には代替案がないので引きます。余計な茶々を入れてしまい、申し訳ありません」
「心の篭もってねえ謝罪はやめろ。耳障りだ」


 鬼無の一声でチーム分けが為されていく。聖堂にカルヴィニアと見張りの一人を残し、二人ずつ三部屋に分かれるということは八人全員が役目を割り振られることになる。すっかり知らない顔をしていたシスターは自分まで労働に駆り出されることに対し、無言で睨みつけるという抗議を行い、しかし、鬼無に完全無視されていた。


 聖堂ホールに残ってカルヴィニアを監視する役目は、一之瀬に任せられた。


「あたし? まー、見張ってるだけでいいんなら楽だし、皆がいいってんなら」
「任せたぞ」


 鬼無は腕を組んで頷く。上に立つのが慣れているのだろう。その仕草には妙な威厳さえ漂っている。年長者のタルボットと棚田が黙って従っているので、他の者たちも文句を言えない空気になっていた。


「おっし。じゃあお前ら家捜しするぞ。目ぇ皿にして探していけよ」


 鬼無の一声で、きびきびとは行かないが棚田たちは行動を始めた。


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