境界の教会/キョウカイ×キョウカイ

宇佐見きゅう

探偵の『二周目』確認・前編

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 鬼無と美玲は事務室にいた。向かい合わせにパイプ椅子に座り、美玲がする話を鬼無が聞く。鬼無は最後まで口を挟まなかった。嫌味と悪態も今ばかりは自粛していた。それほどまでに凄まじい内容だった。美玲の声に篭もっていた感情の燻りも、こちらの無駄口を封じた要因だった。


 美玲が怪物の炎に焼き殺され、夢から覚めたところで話は終わった。


 夢中で話し続けていた美玲は、どっと脱力して椅子にもたれた。疲労感はあるが、妙な感情の昂ぶりは収まったようだ。冷静に会話できるだろう。


「ふん。大体の事情は分かった。ちんけな話だったら、怒鳴り散らしてやろうと思ったが、作り話のようにも思えねえ。本当だって認めた方がよさそうだな」
「信じてくれるの?」
「信じろっつったのはお前だろうが。オレだって相手の話が嘘かどうか見抜く目ぐらいは持っているよ。それに、そのタルボットってジジイはかなりの曲者みたいじゃねえか。ここでてめえを疑って時間を浪費する方がやばそうだ」


 こちらの言葉に美玲は笑顔になる。あまりに純真な笑顔過ぎて、鬼無は苦々しく顔を逸らした。子供は苦手だ。そういう心の持ち主も。実にやりにくい相手だ。


「けどまあ、どうしてオレが選ばれたのか納得できたわ。『二周目』には不明な点が多い。そいつをまとめるのに知恵を貸せってことだろ」
「うん。鬼無さんが適任だと思って。探偵さんだから」
「ジジイに殺されてるしな。時間を掛けると怪しまれる。パパッと行くぞ」


 時系列順に謎を挙げていった。


「誰が『オレ』を殺したのか。これはタルボットだろう。半分自供していたし、チャンスがあったのは奴だけだ。じゃあ、なぜ『オレ』は拳銃を持っていたのにむざむざ殺されたのか。これも予想は付く。まあ、難しくねえ謎だ」
「え、そうなの? どうしてだったの?」
「うるせえ。自分で考えてみろ。あまり笑えねえ事実が浮かんでくるぜ。チッ、オレったらダセえなおい」


 鬼無は、『二周目』の自分を笑い飛ばした。


「次。カルヴィニアを殺したのは誰か。殺せるチャンスは誰にでもあった。犯行のタイミングは恐らく、タルボットが全員を聖堂に集結させる前だ。神父の位置はそこで変わっている」
「別に神父さんがいつ死んでたってどうでもいいよ。悪魔の契約者の方がよっぽど重要な謎だよ。そうでしょ?」


 美玲が目の色を変えて急かしてくる。美玲の言うことも尤もだが、感情で目を曇らせてはならない。鬼無は罵倒で窘めた。


「阿呆か。二回死んでもまだ頭のポンコツ具合が直らねえのか、阿呆娘。焦るんじゃねえ。タルボット以外にも敵がいるって思ってるから、こっそり作戦会議してんだろ?」


 美玲はしおらしく俯いた。


「てめえが一番不思議に思っている謎は、タルボットは死んだのに、どうして悪魔が放出されてしまったのか、だろ? これには二つの解釈が考えられる」


 鬼無は指を二本立てた。


「契約者が死んでも、悪魔との契約は続くという解釈。それか、タルボットが本当の契約者ではなかったという解釈だ」鬼無は二本を順に折り曲げ、拳を下ろす。「後者の場合、ならば本当の契約者は誰か? そしてさらに、なぜ本当の契約者は死んでいないのに大扉の結界は開いてしまったのか? 分かるか? 美玲」
「ええと……」


 美玲は両目をくるくる回して答える。


「……実は、結界の解除方法は別に存在していて……、その条件を誰かが密かにクリアーしていた、とか?」
「正解だ。まあ、仮説に仮説を重ねた、頼りねえ推理だがな」


 段々と頭のエンジンが温まってきたようで、美玲の意見も増えてきた。


「私たちが脱出したのと関係なく、悪魔が召喚されていた、とか……」
「絶望的だな。オレたちが何しようと変わんないんだったら、オレたちが考えるべき問題じゃねえ。希望のない未来を妄想して、やる気失うのは馬鹿のやることだ」
「そうか……。だよね。うん」


 己を納得させるように頷きを重ねる美玲。何かを思い出して両手を叩いた。


「あ、そう言えば、タルボットさんが話してた変な昔話。今考えると変かも」


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