境界の教会/キョウカイ×キョウカイ
または如何にして(略)
●
情報を制す者は、何よりも強い。
タルボットは知らない振りをしていたが、実はここにいるほぼ全員の素性を知っていた。どの者も各業界では一角の有名人である。知らなかったのは阿誰鳳子だけだ。
数年前に壊滅した新興宗教の元幹部、棚田功奨。
メイドコスプレのゴーストバスター、一之瀬瞳。
死さえ厭わない狂信者、レオ・カルヴィニア。
血気盛んなエクソシストを淡々と死地に送り込む補助討伐官、カタリナ・緋冠陽慈女。
他人をまったく信用しないが、それがゆえに信頼されている探偵、鬼無しとど。
そして、予知能力者の大舘美玲。
今日知り合う前から、美玲の存在を知っていた。本人は能力のことを完全に隠し通せていると思っているようだが、オカルトの筋では彼女は知られた存在である。
大事件が起こるはずだったのに何も起きなかった現場で頻繁に目撃される少女。
あの少女が予言された事件を未然に防いでいる。やがてそんな噂が立っていった。
それが大舘美玲だった。証拠もない、あくまで噂程度の疑惑だったが、タルボットは信憑性が高いと感じていた。
タルボットが今日この教会に足を運んだのは、気まぐれや偶然ではない。目的があってこの場に立っている。タルボットの情報網はあらゆる業界に繋がっており、その中には緋冠が所属している極東カトリック司教協議会も含まれる。
スパイという姑息で回りくどい手段を使わずとも、多額の寄付金をもたらす信仰心の厚いカトリック教徒の仮面をかぶれば、かの組織は門扉を快く開いてくれる。カトリック側からしても、立場も資金もある人物の支援は願ってもないことだ。
その伝手で、レオ・カルヴィニアと緋冠陽慈女の二人が悪魔征伐の任務を帯びて、とある教会に出入りしていることを知った。レオ・カルヴィニアは目立つ外見だ、すぐにその教会がS県S市にある聖インテグラ教会だと突き止めた。
タルボットは、悪魔の魂の処分が行われる前に教会に向かった。
すべては情報力と観察力がものを言う。それがタルボットの信念だ。
人物の性格や志向が分かれば、行動を誘導することは造作ない。人数が増えても基本は同じこと。想定するパターンの数をニ、三桁増やせば事足りる。タルボットはこの日のために百のパターンを用意しておいた。共に閉じ込められた七人の性格を知ったことで、三十個まで削れた。多少の誤差はその場で修正できる。
どう盤を回そうか。タルボットは頭を回転させつつ、名乗り上げる。
「ガロッサ・タルボット。MITで物理学を研究している。現在はサバティカルの一環でこちらの大学と共同研究のために日本に来ている」
教会に来た動機を、タルボットは即興で考えて言った。
「今日は、鷲尾神父から大事な話があると聞いて来た。誰にも聞かれたくない話と言っていたのだが、心当たりがないかね? 棚田君、シスターカタリナ」
もちろん、鷲尾とは赤の他人。彼との約束などあるはずがない。怪しまれるリスクは高いが、他人の交友関係をすべて把握することは不可能だ。タルボットと鷲尾の繋がりを当人たち以外が完全に否定することはできない。大胆なブラフであった。
棚田はわざとらしく手を叩いて顔を綻ばせた。
「ああ、もしかしてあれのことですか。ええ、そうなると、鷲尾神父はあなたと僕を交えて相談したかったのかもしれませんねえ。悪魔の魂について」
素晴らしい気概だ。あからさまなブラフに迷わず乗ってくるとは。タルボットは着々と計画を練りながら、心から祝福の微笑みを浮かべた。
「ああ、そうに違いない。彼は薄々感付いていたのだろうな。悪魔封滅の儀式に乗じて、敵が悪魔の魂を奪いに来ることを」
いけしゃあしゃあと言うと、棚田の笑みが濃くなった。
さあ、どう楽しませてくれるのかな、詐欺師君?
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情報を制す者は、何よりも強い。
タルボットは知らない振りをしていたが、実はここにいるほぼ全員の素性を知っていた。どの者も各業界では一角の有名人である。知らなかったのは阿誰鳳子だけだ。
数年前に壊滅した新興宗教の元幹部、棚田功奨。
メイドコスプレのゴーストバスター、一之瀬瞳。
死さえ厭わない狂信者、レオ・カルヴィニア。
血気盛んなエクソシストを淡々と死地に送り込む補助討伐官、カタリナ・緋冠陽慈女。
他人をまったく信用しないが、それがゆえに信頼されている探偵、鬼無しとど。
そして、予知能力者の大舘美玲。
今日知り合う前から、美玲の存在を知っていた。本人は能力のことを完全に隠し通せていると思っているようだが、オカルトの筋では彼女は知られた存在である。
大事件が起こるはずだったのに何も起きなかった現場で頻繁に目撃される少女。
あの少女が予言された事件を未然に防いでいる。やがてそんな噂が立っていった。
それが大舘美玲だった。証拠もない、あくまで噂程度の疑惑だったが、タルボットは信憑性が高いと感じていた。
タルボットが今日この教会に足を運んだのは、気まぐれや偶然ではない。目的があってこの場に立っている。タルボットの情報網はあらゆる業界に繋がっており、その中には緋冠が所属している極東カトリック司教協議会も含まれる。
スパイという姑息で回りくどい手段を使わずとも、多額の寄付金をもたらす信仰心の厚いカトリック教徒の仮面をかぶれば、かの組織は門扉を快く開いてくれる。カトリック側からしても、立場も資金もある人物の支援は願ってもないことだ。
その伝手で、レオ・カルヴィニアと緋冠陽慈女の二人が悪魔征伐の任務を帯びて、とある教会に出入りしていることを知った。レオ・カルヴィニアは目立つ外見だ、すぐにその教会がS県S市にある聖インテグラ教会だと突き止めた。
タルボットは、悪魔の魂の処分が行われる前に教会に向かった。
すべては情報力と観察力がものを言う。それがタルボットの信念だ。
人物の性格や志向が分かれば、行動を誘導することは造作ない。人数が増えても基本は同じこと。想定するパターンの数をニ、三桁増やせば事足りる。タルボットはこの日のために百のパターンを用意しておいた。共に閉じ込められた七人の性格を知ったことで、三十個まで削れた。多少の誤差はその場で修正できる。
どう盤を回そうか。タルボットは頭を回転させつつ、名乗り上げる。
「ガロッサ・タルボット。MITで物理学を研究している。現在はサバティカルの一環でこちらの大学と共同研究のために日本に来ている」
教会に来た動機を、タルボットは即興で考えて言った。
「今日は、鷲尾神父から大事な話があると聞いて来た。誰にも聞かれたくない話と言っていたのだが、心当たりがないかね? 棚田君、シスターカタリナ」
もちろん、鷲尾とは赤の他人。彼との約束などあるはずがない。怪しまれるリスクは高いが、他人の交友関係をすべて把握することは不可能だ。タルボットと鷲尾の繋がりを当人たち以外が完全に否定することはできない。大胆なブラフであった。
棚田はわざとらしく手を叩いて顔を綻ばせた。
「ああ、もしかしてあれのことですか。ええ、そうなると、鷲尾神父はあなたと僕を交えて相談したかったのかもしれませんねえ。悪魔の魂について」
素晴らしい気概だ。あからさまなブラフに迷わず乗ってくるとは。タルボットは着々と計画を練りながら、心から祝福の微笑みを浮かべた。
「ああ、そうに違いない。彼は薄々感付いていたのだろうな。悪魔封滅の儀式に乗じて、敵が悪魔の魂を奪いに来ることを」
いけしゃあしゃあと言うと、棚田の笑みが濃くなった。
さあ、どう楽しませてくれるのかな、詐欺師君?
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