タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第九十九幕《家族》

 第九十九幕《家族》


「一度もないって、そんなの嘘に決まっている……」


「嘘じゃない。自分のしてきたことが全部、己の意思だって言ったら嘘になる。誰だって、多かれ少なかれ、他人の都合に振り回されて生きている。僕のところにキナちゃんが転がりこんできたようにね。でも、それを受け止めたのは僕だ。僕の判断で、僕の責任だ」


「……僕の責任って、そんな」


「それにさ。信頼って、その人にどれだけ迷惑を掛けられても許せることじゃないかと思うんだよ。『こいつに騙されるのなら仕方がない』。『こいつに殺されるなら本望だ』。『こいつのためだったら、人生を賭けられる』……ってね」


「……だけど、大切な人だからこそ、迷惑を掛けたくないって思うでしょ」


「そうだね。迷惑を掛けられても大丈夫なのと、相手に迷惑を掛けたくないのとで平行線だ。でも他人に迷惑を掛けたらそれはただの迷惑でしかないけど、親しい人に掛けたのなら、それは信頼の証になるんだよ。キナちゃんは、僕が信頼できないかい?」


「……そういうわけじゃ、ないけど」


「ん。それはよかった。正直そこのところ自信がなくてね。さっき縁を切られる覚悟はできているって言ったけど、僕の方こそ、いつ君に愛想を吐かされるかってビクビクしているんだよ。君と会えない間、このまま家出されるかもしれない、って危惧していた」


「それは、心配の方向性がまた斜めってるね……。コメントがし辛い」


「いや、真面目な話ね。正味な話。僕みたいな他人の気持ちを分かろうとしない、社会性皆無の男と暮らせる女子高生なんて、普通はありえないよ?」


「そんなことを言ったら、お父さんこそ、いきなり転がり込んできた女子高生を当たり前のように引き取っちゃうなんて、普通だったらありえないと思うんだけど」


「僕は普通の神経をしてないからね」


「私だって普通の生い立ちじゃないし」


「ええと、本題に戻ろうか。迷惑と信頼の話だったっけ?」


「少し違う。私がお父さんの人生を滅茶苦茶にしちゃうって話」


「滅茶苦茶にしちゃっていいんだよ。君のためだったら、僕の人生、いくらでも犠牲にする。それを君が悔やむ必要はない。むしろ僕に失礼だ」


「……どうして、そこまでしてくれるの? 私なんかのために」


「君は僕の娘で、僕は君の父親だ。理由はそれだけで、それで十分だ。出会ってまだ数ヶ月しか経ってないけれど、それはもう誰にも否定できない事実だよ」


「…………」


「僕は君を愛している。これ以上の、どんな答えが必要だって言うんだい?」



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