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タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第八十四幕《幕裏》

 第八十四幕《幕裏》          七月十四日 二十一時二十三分




「素晴らしいよ、パパン! やればできるじゃん。私、感動しちゃった」


「ああうん。褒めてくれるのはいいけど、これ、君が書いた台本だからね?」


「遠回しの自画自賛に浸っているだけですわん……。いやん、私ったら天才……」


「あっそう。脳内幸せそうで何より」


「幸せの感覚って脳内麻薬によって引き起こされるから、まさにそのとおりですわ」


「折れないね。で、この話、このままハッピーエンド?」


「もちろん。『その後、父と娘の仮面を外した二人は、連れ添ってアパートに帰った。家族の真似事はやめて、自分たちは自分たちの関係になろう、と思いを改めた二人の姿は、しかし家族でも恋人でもない温かな関係で結ばれているようだった。距離感を計り合うようにギクシャクしながら、時おりに衝突しつつも、共同生活を送っていく僕と少女。やがて二人は、お互いに大事な存在だと思えるように……』。ふふふ、全米を泣かしたるわ」


「さて、寝言が聞こえてきたから、そろそろ寝る時間かな」


「いい? 私たちに足りなかったのはこういう雰囲気だよ。コンプレックスとか相手への遠慮とか、お互いにお互いを思いやるいじらしさ。出会ってすぐ漫才を繰り広げるようなフレンドリーさなんて余計だったんだよ。ていうか、何簡単に私と仲良くなっちゃってるの、三月下旬のお父さん。普通ありえないでしょ」


「よもや娘を引き取ったことに、本人からダメ出しを食らうとは……。え、何? さっきまでのテコ入れの話や三文芝居は、このお説教に至るまでの前振り?」


「いえ、そういうわけじゃないですけど。思いつきの連続でこの結論に至りました」


「はあ。それはそれは」


「戯言を言いまくりすぎて、しっちゃかめっちゃかになってきたので一つずつ片付けていくと、まあ、ぶっちゃけハートフル劇場路線も寒すぎて無しだわ。テコ入れも、私たちはグダグダの関係でいい気がしてきた。マンネリ万歳! はい復唱!」


「マンネリ万歳」


「自画自賛は半分本気の半分冗談として、でもやっぱり話を考えたりするの楽しいや。うん、今度、ちょっと本腰を入れて物語を考えてみる」


「いいんじゃないの。その調子で文化祭の劇の台本も書いてみれば」


「あー、実は、そっちはもう演劇部の子が書いた台本で決定しちゃってるんだ。私が生徒会と委員会にかまけている間に決まってた。言ってなくてごめんね」


「別に謝らなくてもいいよ。それで、次はどんな話を書く気だい?」


「そうだね。次はお父さんを主人公のモデルにした異能バトル系を」


「それは。絶対に。やめろ」



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