タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第七十九幕《失笑》

 第七十九幕《失笑》




「それじゃ、お父さんの願い事は?」


「ん? 僕はね……」


「あ、ちなみに『今の生活で十分幸せだから、この生活がずっと続けばいいと思っている』みたいなすかしたイケメン回答は望んでないので却下ね。あー、はいはいって感じ」


「何か言う前に否定された!」


「お父さんの考えてることなんかお見通しだよ。さあ、もっとガツガツしたのを! しょせん人間は欲望の塊なんだって思い知らせるような生々しい願い事を!」


「おっきいおっぱいに顔を埋めたい」


「……なッッ!」


「…………」


「……ッッ!」


「…………」


「……あ、あーあ、今日って良い天気だなあ。買い物にでも出かけようかなあ」


「いや冗談だって。何を露骨に話を逸らそうとしてんだ、おい」


「え? ああ……、うん。大丈夫だよ、お父さん。私、理解ある方だから」


「あの、だからね……。くれぐれも勘違いしてもらいたくないんだが……」


「うんうん、いいんだよ、誤魔化さなくて。私分かってるから。性癖としてはいたってノーマルだし、お父さんには我慢させてるなあ、ってむしろ罪悪感を感じたし」


「何も分かっちゃいねえし! そっち方面で理解を進めないでくれ! いや、違うってわけじゃないが、それ以前に家族に生温かい目で理解されるのめっちゃ辛い!」


「いやあ、さっきのお父さんの声、ガチトーンだったわ……。怖ぁ……」


「はいはい、僕が悪うございましたよ……。ったく、迂闊だったな。キナちゃんの振りに応えればこうなることは予想できていたのに。いったいどう答えたら正解だったのか」


「安牌はお金関連だね。お金なら軽く流せるし、突っつかれても開き直ることができる。シュール系なボケも誤解されにくい点で安全と言える。ただしシュール系は万が一にも本気と受け止められると人格を疑われるので注意が必要だ。お父さんみたいな普段から冗談を言わないタイプは、何を言っても本気と取られる可能性が高いので、いっそのこと真面目すぎるのをボケにしたらいいんじゃないのかな? 世界から飢餓が消えますように、とか」


「……どうして僕は漫才講座を受けているのだろうか。願い事どこ行った」


「細かいこと気にしない。では以上のことを踏まえて、お父さんの願い事は?」


「キナちゃんの頭の中がもっとマシになりますように」


「……あはは何それ笑えな~い」



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