タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第七十八幕《七夕》

 第七十八幕《七夕》                  七月八日 八時十分




「お早う、お父さん。今日が何の日か知っていますか?」


「え? 何の日だろう。何かあったっけ? えと、七八で沖縄の日とか?」


「ブブー、違います。正解は、七夕の次の日でーす」


「はあ……。七夕の次の日でしたか。八日ですもんね。そうですね」


「そうなのです。つまり今日は、短冊に書いた願い事が叶って、一年で一番幸せが満ち溢れている日というわけ。いわば幸せの日なのですよ」


「いやあ……、その理論はどうだろうか。願い事がそう簡単に叶うとは思えないし……。だいたい幸せの日っていうのなら、クリスマスとかお正月とか、誕生日とかの方が幸せって言えるんじゃないのかな?」


「順当な正論に反論すると、誕生日は人によってバラバラでしょう? 共通の日ではない。それにお正月はおめでたい日であって、幸せの日ではないような気がする」


「じゃあクリスマスはどうだい? 家族と過ごすクリスマス。恋人と過ごすクリスマス・イブ。どうだろう、いかにも幸せに溢れた言葉じゃないか」


「甘いね。そういう一般的に喜ばれている日こそ残酷なんだよ。幸せの陰には、絶望が隠れている。例えば、たった独りで過ごすクリスマス……。例えば、サンタさんの来ないクリスマス……。例えば、プレゼントが贈られてこないことなんて分かっているけど、それでも毎年期待してしまう子供たち……」


「……つ、辛い。何て鬱なんだ。あまりの切なさに身が摘ままれる……。OK、確かに周りが幸せになることで、いっそう強く自分の不幸を感じることはあるだろうね。よし、では今一度、七月八日が幸せの日だと言う理由を説明してもらおうか」


「あ、いや、これ以上その議論を続ける気はないんで、スルーしちゃってください。本題は今日が幸せの日かどうかじゃなくて、昨日の七夕にどんなお願い事をしたかで」


「願い事? いや、僕は何にも願ってないよ。もう大人だからね」


「はあ? なあにそれ。つまらないコメント。夢も希望もない大人だわさ」


「別にいいだろ。キナちゃんは、どんなお願い事を?」


「いや? 昨日が七夕だったなんて、今朝起きてから気付いちゃったし」


「気付いちゃったし、じゃねえよ。じゃあここまでの下りは何だったんだよ」


「はい。と、いうわけで一日遅れになっちゃったけど、これから織姫と彦星にお願いする願い事を考えようってのが、私がしたかった話でーす」


「話の組み立てが下手すぎる。本題に入るまで、どんだけ掛かってんだよ」


「ちなみにね、私がお願いするのは、宝くじが当たって大金持ちになれますように」


「夢も希望もあったもんじゃねえなあ……」



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