タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第七十四幕《眼前》

 第七十四幕《眼前》




『というわけで、久しぶり。元気にしてたー?』


『相変わらずさっぱりしているね、君は。十六年ぶりだというのに。そういうところは、当時の彼女っぽい。上手く再現できている』


『もう、十六年ぶりに彼女と会ったのに返事がそれ? 頭でっかちだね、まったく』


『それが僕らしさだと思っているからね。君は? 元気にしていたかい?』


『さあ、どうかな。それは君が、一番よく知っているんじゃないのかしら』


『僕が? 僕は知らないよ。どうしてそんな風に言うんだ?』


『あはは……、そうだよね。私のことだもの。君が知っているはずもない』


『君は今、どこにいるんだ? あの世? 僕の知らない遠い町?』


『私は今、あなたの目の前にいる。もしくは夢の中かしら?』


『ああ、確かにそうか。君はここにいるのか』


『そう、私はそこにいる。嬉しい? 私にまた会えて』


『嬉しいよ。でも、ここで別れたら、また会えなくなると思うと悲しいね』


『へえ、悲しんでくれるんだ? そういえば、娘ちゃんと一緒に暮らしているんだってね。キナちゃん。私と君の愛の結晶。あの子はどう? いい子にしている?』


『いい子だよ。親の顔を見てみたい。もちろん、育ての方のね』


『産みの親は、あの子を捨てて行方を晦ましちゃった最低の女だからねー』


『他人事みたいに言うね。ああ、ここにいる君にとっては、他人事なのか』


『ここが夢で、私があなたの妄想の産物だとしたら、そうなるね』


『その言葉もまた他人事だね』


『そうよ? 自分のことだって他人事。所詮それが人間というもの。自分が自分だと思っているものはすべて親や友人からの贈り物。本当に自分のものなんて在りはしない』


『……ずっと、君に聞きたかったことがあるんだ』


『うん、何かしら? だいたい予想は付くけれど』


「君は……、どうして十六年前、消えてしまったんだい? ずっと、それを考えていた』


『うふふ……、知りたい? 本気で知りたいと思っている?』


『……え? そんなの当たり前だろ? だって、突然消えちゃったし、僕は君の彼氏で、君のことが好きだったんだから』


『わお、嬉しいことを言ってくれるね。へえ……。十六年も経っているというのにジェントルマンだ。まるで元彼氏って感じ?』


『まるでじゃなくて、本当に彼氏だったじゃないか』


『そうでした。で、私が蒸発した理由だっけ? いいよ、答えてあげる』



コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品