タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第七十三幕《夢中》

 第七十三幕《夢中》              ?月?日 ??時??分




『……ねえ。ねえってば! ちゃんと私の話、聞いてる?』


『……え? どうして、君がここに?』


『どうしてここにって、何その質問? 私がここにいちゃいけない理由でもあるの?』


『確かに……、変な質問かも』


『変な質問よ。まったく、失礼しちゃうわ』


『……えっと、君は、キナちゃんじゃないよね?』


『キナちゃんって誰? 私以外の女? 私という可愛くて、面白くて、頭脳明晰の彼女がありながら、別の女にうつつを抜かしているっているわけ?』


『面白さを彼女としてのアピールポイントに入れているのは、確かに面白いかもしれないね。そうか、キナちゃんに似ているけど、やっぱり君なのか……』


『イエス。私は私です。彼氏君の彼女ちゃんです』


「でもどうして君が? だって君は十六年前に行方不明になって……』


『パードゥン? 本当にどうしたの? さっきから変なことばっか言って。私が行方不明になった? 何言っているの? 私はここにいるじゃん』


『……ああ、そうか、分かった。これは夢だ。僕は夢を見ているんだ。そうかそうか……。それなら、彼女がいるのも納得が行く』


『あらら……。今度は夢と来ましたよ。私が隣にいるのが夢みたいだって、褒めにきているのかしら? 遠回しなことですわ。褒めるの結構、コケコッコー』


『言い回しが古いなぁ……』


『子供は褒めて育つ。女は褒めて綺麗になる。彼氏として、私にもっと綺麗になってほしいという願望なんですね。しかーし、ここで君に朗報がありまーす。何と私はぁ……、夢じゃありませーん! リアル彼女でーす! パンパカパーン! やったぁ!』


『え、あ、うん。……彼女ってこんなに頭が緩かったっけ? いかんな……、自分の夢だからって、他人の人格を変形させてしまうなんて』


『私、頭緩くないよ! パー璧天才だもん!』


『パー璧って言い方がすでに馬鹿っぽいんだが』


『パーフェクトに完璧。いやお前、どんだけ完璧なんだよって感じだよね』


『若者言葉にツッコミを入れていたら、切りがないって。ハゲるとか卍とか』


『ここが夢なのか。私が夢なのか。そんなことは問題ではないのよ。大事なのは、私がここにいて、あなたがそこにいること。そして、私たちが意志を交換すること』


『意思を交換する……。それは、つまり……』


『話すこと。対話こそが世界を構築し、世界を動かすのよ』



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