タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第五十五幕《主点》

 第五十五幕《主点》




「しつこくメタ発言を続けると、私とお父さん、どっちが主人公なんかね」


「そりゃ、キナちゃんでしょ。華があるし、明るいし、読者に好かれる人格をしている。対して僕は、ただの地味で根暗な中年だ。どちらが語り部かなんて答えは出ている」


「いやいや分かんないよ~? お父さんは流され体質だし、いたって普通だし、主人公の素質は十分備わっていると思う。地味め主人公の法則を知らないのかね?」


「寡聞にして存じ上げませんけど、ちょっと分かるような……。三十三にして、スポットライトが当てられたってわけかい? あっははー、嬉しくないな」


「おっ? いいねえ、ニヒルな感じ。脱力系主人公だ」


「やめてくれ、やめてくれ。僕は舞台の真ん中になんか立ちたくないんだ。……って、こんなこと言うのも主人公の素質の一つか。やれやれ、面倒なことだ」


「もし私が主人公だったら、お父さんはあれだよね。主人公が困ったときに、皮肉を言いながらも助言をくれたりするタイプ。人気キャラ投票でちゃっかり上位にいる」


「そんな風に僕を見ていたのかい? 実に過大評価だ」


「でも、私もお父さんも重要人物じゃなくて、単なるモブキャラかもね。私たちの知り合いの誰かがこの物語の本当の主人公。その誰かは冒険活劇を繰り返しているけど、モブキャラの私たちには関係ない。だから私たちは平凡な日常を送っている。つまり、あれだね。『やっと日常に帰ってこられた』って主人公が確認するための存在だ」


「……んんん? とうとう自分をモブキャラ扱いし始めたぞ、この子。君はそれでいいのか? 僕が言うのもあれだが、君は、もっと晴れ舞台に立つべきだと思うぞ」


「いえ。私は己の分を弁えておりますゆえ。現状の扱いに満足しております」


「いちいち面白いのになあ。君はいったいどこへ目指しているんだか」


「私の目指すところは……、私は、貝になりたい……。貝になって、暗い海の底で、誰の邪魔にもならず、誰も愛さず、静かに、何も考えずに、生きていきたい……」


「……暗い! 女子高生の口から出たとは思えない! 何て暗さだ……」


「ってのは冗談でぇー、私はみんなを照らす太陽になりたいでーす! ぴっかりーん!」


「いや、今さら取り繕っても遅いから。もう君の暗黒面を覗いちゃったから。そんな明るいとこを見ても、痛々しさしか感じないよ」


「まあ、さっきのは性質の悪い冗談として。本音を言えば、私の人生ってすでにドラマチックなんで、これ以上演出されたくないっすねー。平穏一番っすマジ卍」


「それもそうか。一周回って、普通の結論に辿り着いたね」


「私はいたって普通の、どこにでもいる無害な女子高生ですからね」


「あ、うん、君がそう思うんなら、それでいいんじゃない?」



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