タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第五十二幕《恥晒》

 第五十二幕《恥晒》




「うーん、しかし、どうしようかな。他に台本書ける子を探すか、演劇部か文芸部に頼んでみるか、それともあの子の成長に賭けるか……。悩みどころだ」


「いっそのこと、キナちゃんが書くってのはどうだい?」


「私が? ないない、それはない。柄じゃないって」


「才能あると思うけどね。エイプリルフールのときのは見事だったよ。演技力もあるし、度胸もあるし、そっちの方面向いているんじゃないかと思っているんだけど」


「そっちの方面って?」


「演劇。キナちゃん、演劇部に入ってみたらどうかなってこと。さっき鞄から台本を出してきたから、演劇部に入ったのかとつい思ったよ」


「ん。んー、まあ、部活の話は置いといて、と」


「あそう。じゃあクラス劇の台本は、自分で書いてみたいと思わない?」


「……うーむ。自分でかぁ。それは考えてもみなかったじぇ」


「考えてみなよ。嫌だって言うなら無理強いはできないけど」


「嫌ってわけじゃないけど……、恥ずかしくない? 自分の考えたお話をクラスメイト全員に読ませて、そんで演技してもらって、大勢に見せるわけでしょ? 恥ずいじゃん」


「大丈夫大丈夫。一番恥ずかしいのは役者さんだから。あ、それともキナちゃん、役者志望? 役者が台本を書くこともよくあるよ。全然普通のことだって」


「いや、何なんその積極性。そんなに私に恥を掻かせたいの? 悶え死ぬよ、私」


「悶え死ぬところを見届けてあげるよ。だけど、わくわくしない? 自分が考えたお話で役者が動いて、喋って、それで観客が笑ったり感動したりしてくれるって考えると」


「……むう。決定的な情熱量の差を感じるぜ。お父さん、もしかして演劇経験者?」


「話したことなかったっけ? 僕、高校のときは演劇部だったんだよ」


「納得。それで、そのテンションなわけか。自分が恥を晒していた経験があるから、他人にも意気揚々と恥を晒させようとしているわけか」


「恥にこだわるね。あんまり人目を気にし過ぎていると羽目を外せなくなるよ。友達のみんながはしゃいでいるときに、一人膝を抱えているつもりかい?」


「何か別の話になってない? 台本の話でしょ」


「そうだね。さっきも言ったけど、無理強いはしないよ。あくまで提案だ。却下してくれて構わない。問題はキナちゃんが書きたいか書きたくないかじゃないか?」


「むむ~……。一応、そのプランも、検討、しておきます」


「それでいい。答えが出たら教えてくれ」


「……それも、検討しておきます」



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