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タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第五十一幕《喜劇》

 第五十一幕《喜劇》




「……と、一旦休憩入れるか。お父さんお疲れー」


「……っで、そろそろ説明もらえるかな?」


「ん? 説明って?」


「何これ。急に読ませて」


「だから、台本。台本の読み合わせ」


「どうして台本を僕とキナちゃんが?」


「前にさ、文化祭で演劇やってみようかなって話をしたじゃない。それをクラスの友達に話してみたら、じゃあ、私書いてみる、って立候補する子が出てきたんです」


「脚本家志望がいたんだ。その子がこの台本を?」


「うん。その子は本気で書いて、それなりに自信作みたいなんだけど……」


「面白い内容だよ。まあ、個性的だけど」


「これ、感想を求められているのだけど、どう返事したらいいものか」


「面白かったじゃ駄目なのかい。これを文化祭で使うってわけじゃないんだろ?」


「手ぬるい……。何も知らないから、そんなことが言えるんだ」


「僕はその子の友達ではないからね。ほとんど何も知らない」


「……実はね、その子が書いた台本って一個じゃないの」


「え? 一個じゃないって……」


「――あと九個ある。これが一番まともだった奴。他の九個はカオスだよ」


「……えーと」


「キツネの子供がクーラーを買いに行って、代金として皮を剥がされて、それで母親が復讐を誓ったり、鉛筆とシャープペンが口喧嘩しているところに電子辞書が仲裁に入ってきて、最後は三つとも広辞苑に踏み潰されたり、不眠王子という頭も下も起きっ放しの王子が、下半身を元気にしたまま働きすぎて過労死し、棺桶に入れられるときまで下半身は起きていたり、ミュージシャンの夫婦が喧嘩をして、互いに自分のCDを投げつけ合いながら、愛を謳った歌詞を叫びあったり、一見幸せな家庭なんだけど、部屋の隅っこに、ずっとタカシという名の犬が正座している話だったり。……まだ聞きたい?」


「……まあ、独創的かつ文学的でありながらも、社会を風刺しているというか……」


「本気でそう思っている?」


「…………」


「謝ったら許してあげる」


「僕が悪かった」


「うむ。許そう」



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