タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第四十九幕《交流》

 第四十九幕《交流》




「途中までまともに話を聞いてくれてたのに、急にどうした!」


「ごめんごめん。うっかり本音が。ええと、やっぱ帰宅部はやめた方がいいよ。そんな簡単に諦めないで、どこかの部活に入りなさい。きっと楽しくなるからさ」


「……お父さんって、たまに、どうしようもなく楽観的で、引く」


「おおっと、不思議な理由で娘に引かれてしまったぁ」


「……私が今、冷静な判断ができていないってことは分かるよ。友達と喧嘩しちゃったからって部活を憎んだって仕方ないことも。だけど、他人と衝突するのが面倒だって思ったのも本当なんだ。いつか同じようなことが起きるかもって考えると嫌になるんだ。面白かったことが、ちょっとしたことで一瞬で、つまらなくなることが怖い」


「若いなあ……。おっと、ごめんごめん。そうだね、他人と関わることは確かに面倒がいっぱいだ。一人として同じ考えを持っている人はいないし、精神の成長具合も人それぞれだ。他人とすれ違うことは辛い。それが、仲の良い友達との間で起こったとしたら、なおさらだ。その場の勢いで絶交してしまいかねない。でもそういうときはジッと止まってみて、相手を全面的に認めてやるんだ。お互いが違うのは当たり前、気に食わないのは仕方がない、ここは広い心で許してあげよう、ってね。つまり、何だろうね。人ってのは面倒くさい生き物だってことだ。自分自身も含めてね」


「……少しは我慢しろってこと?」


「そうは言ってないさ。そんなことは言っていない」


「……? じゃあ、どういうこと? よく、分かんないんだけど」


「さあ、どういうことかな。キナちゃんは、そのお友達のことが好きなんだ。好きだから裏切られて傷付いたし、だから、部活も魅力的に思えなくなった。まさしく何をやるかではなく、誰とやるかだね。キナちゃんは友達と一緒に部活がしたかったんだろ? 逆に言えば、友達と一緒なら何の部活でもよかった。違う?」


「……まあ。そう、かも」


「なら、その思いを友達にぶつけてやって、仲直りする。仲直りができたら、つまらなくなったこともまた面白くなるよ。でも、帰宅部に入ったら仲直りもできなくなる。それは寂しいことだ。そして、仲直りに必要なのは我慢じゃなくて、ほんの少しの勇気だよ。うん、要するにキナちゃん頑張れってことだ」


「……お父さん。素面でそんなこと言ってて、恥ずかしくないの?」


「恥ずかしいよ。普通に」


「あ、普通に恥ずかしいんだ。……まあ、頑張るけど」


「うん。頑張れ、頑張れ」



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