タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十九幕《説得》

 第三十九幕《説得》




「じゃあ、どうやって説得すればいいの?」


「いや。だから他人の趣味に口を出しちゃいけないって」


「だって! そいつから趣味を押し付けられたら反論したくなるでしょ! 正当防衛だよ」


「元気だなあ……。ま、正当防衛とまで言うなら仕方がない。今回はキナちゃんの肩を持つことにするしよう。二つ目のクエスチョンの、占いを信じなくさせる説得の仕方だけどね。お友達にこう言ってあげればいいんだ。『そんなことより、彼氏できた?』って」


「……ほほう? それはつまり、喧嘩を売るわけだね? あなたはそんなことばかり言っているから彼氏ができないのですわよ、と。うっひょう! 過激ぃ!」


「違うそうじゃない。つまり、まともに相手しないで、別の話を振るってことだよ」


「普通だね。つまらない」


「普通だよ。つまらなくて結構。説得は、やんわり現実を突きつけてやると効果的だ」


「その子に彼氏がいた場合は? しかも占いのお陰で彼氏ができたし、宝くじ当たったし、成績も上がったしで、順風満帆だったら?」


「占いというより、開運アクセサリーみたいな話になってきたね。成績が上がったのはその子の努力のお陰だろうに。でも、もし幸福を運命などという曖昧なものに頼っていたり、他人にもそれを薦めていたりした場合は、そんな相手とは、さっぱり縁を切ることを薦めるけど。僕だったら迷わずそうするね」


「シビアにクール! いやいや、そんな簡単に友達はやめられないよ。やめられたとしても、今後も学校で顔を合わせることはあるんだから」


「そのお友達には彼氏はいるの?」


「いないけど。ん、でも中学のときにはいたよ。モテモテだった」


「あそう。お友達が占いに嵌まり出したのは、ここ最近?」


「中三の三学期の後半になってからかな。だから一、二ヶ月前から」


「ああ、それなら何の問題もないよ。すぐに解消されるはずだ」


「へ? そうなの? どうしてそんなことが言えるのさ」


「原因が見え透いているじゃないか。中学校の卒業。恋人との別れ。高校から始まる新生活。そういった不安から、占いに縋りついているんだろう、きっと。一時的なものだよ。季節の変わり目に風邪をひくのと一緒。高校が始まって、新しい環境に慣れれば、占いの熱も覚めるだろうさ。キナちゃんは、温かく見守ってやればいい」


「なるほど、なるほど。占いが心の隙間を埋めてくれていたってことね。……あ。っていうかこの説明をしてやれば、今すぐに説得できるんじゃ? 名案!」


「いや、今は放っといてやれよ……。可哀想に」



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