タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十八幕《占星》

第三十八幕《占星》              四月三日 八時十八分




「ねえ、お父さん。占いってどう思う?」


「占い? どう思うかって聞かれても……、占いは占いだろ? 信じたい人信じればいいし、疑うなら信じなきゃいい。僕は、特に信じていないね」


「うん、私もそんなスタンス。信じるレベルも人によって様々だろうけどさ、結構多くの人が占いを信じているよね、って思ったんだよ。現代でも需要があるって」


「そうかもね。何だかんだ言って、興味のない僕でも、占いを目にする機会は多い。これだけ供給があるってことは、それだけ需要があるわけだ」


「女性向け雑誌には必ず星座占いが付属しているし、十二星座、血液型、誕生日、運命星とかとか、占い本もたくさん出ている。占い師って職業が成立するかは分からないけど、都会を歩いていると、そういった人たちもちらほら見かけたりする」


「そうだね。それで?」


「うん。それでまあ、ここから本題なんだけど、中学校の同級生で、私と同じ高校に行く子がですね、占いにド嵌まりしちゃっているわけですよ。宗教とまでは行かないけれど、かなり占いに振り回されてて。ちょっぴり心配なんですよ」


「ふうん。でも、個人の趣味の範囲だから、他人がとやかく言う問題じゃないよ」


「そうなんだけどねー。誰かにみついでいるわけじゃないし、放っておいてもいいんだけど、近くで騒がれると、気になったりもするわけだよ。イラッと来て、ムカッとして、世の中から占いなんて消えちまえって、思ったりもするわけですよ。どうして占いって、こんなに流行っているのかな? 占いを信じさせなくするには、どう説得すればいいのかな? お父さんはこの二つのクエスチョンをどう思う?」


「ほとんど愚痴だね、それ。どうして占いが流行っているのかと言うと、たぶん一つは、毒にも薬にもならない情報だからだろうね。トリビアが一時流行ったのと一緒だ。占いというものは信憑性が薄いから責任がない。当たっても当たらなくても構わない、どうでもいい情報だ。無意味なものを知ってどんな意味があるんだ、って思うかも知れないけど、意味があるってのは疲れるもんなんだよ。それを記憶しようとしたり、常に意識しなきゃいけなくなったりするからね。その反面、無意味な情報には気楽に接せられる。遊びや暇潰しは無駄で非生産的なものの方が楽しいってことだよ」


「トリビアって何?」


「そうか……。今の若い子はトリビアを知らないのか。豆知識って意味かな、たぶん」


「でも友達は、占いの結果を大事にしているんだよ。何か矛盾してない? 無意味だから楽しいんだったら、占いに価値を置いて、振り回されていたら本末転倒じゃんか」


「矛盾はしているさ。それが『遊び』ってものだもの。よって、矛盾していない。だから『占いなんて無駄だから止めろ』って説得しちゃ駄目だね。無駄を承知で楽しんでいるんだから、それじゃあ効果はない」



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