タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十五幕《虚実》

 第三十五幕《虚実》              四月一日 八時八分




「……ごめん。お父さん。本当のことを話すよ」


「え? 何? どうしたの急に。……本当のこと?」


「そう。私はここに真実を打ち明けます。今まで騙していてごめんなさい」


「あそう……。いったいどういうこと? 何か変な物でも食べた?」


「食べている物はお父さんと一緒のはずだけど? ううん、お父さん、お願いだから何も言わずに私の話を聞いてちょうだい。すべてを聞けば、納得できるから」


「そうかい……。分かった。話を聞こうじゃないか。聞かせてくれ」


「……私は、本当はお父さんの娘じゃないの。この見た目も本当のものじゃない。私の実年齢はお父さんと同じ、三十二歳……」


「……えーと?」


「私は、敵の魔女に、若返りの呪いを掛けられ、十五歳の年齢まで弱体化されてしまった魔女なんだ。今は内燃魔力で呪いの進行を押さえ込めているけれど、そちらに魔力を取られて、敵の魔女と戦えない状態になっている。今襲われたらひと溜まりもない。今すぐにこの呪いを解かなきゃいけない……! 今すぐに!」


「…………。……な、何だって……!」


「呪いを説く方法は、ただ一つ……。王子様のキス。もちろん、この王子様ってのは比喩表現で愛する者、愛してくれる者って意味。愛の接吻さえあれば、呪いは解け、私の年齢は元通りになる。ああ、だけれど、魔女との激しい戦闘に明け暮れていた私の人生には、誰かと愛し合う余裕などなかった……」


「敵の魔女は、それを知っていたんだろうね」


「恐らく。一度は諦めかけたとき、私は十五年前の恋人のことを思い出した。私がまだ高校生だった頃、交際していた男子の存在を。つまり、あなたのことを」


「ということは……、君は、彼女の娘じゃなくて……」


「そう。私は彼女自身。私よ、ダーリン」


「いや、そんな恥ずかしい呼び方はしていなかったから。普通に君付けだったし」


「そうだったの? ……うん、そうだったそうだった。そんな気がする。話を戻すと、砂漠色の人生の中で、唯一彩りがあった、甘酸っぱい青春時代。彼とキスすれば呪いを解くことが出来る。でも、あなたが魔女や呪いの話を素直に信じてくれるか不安だった」


「そりゃあ、とんでもない話だからね。出会ったときに聞いていたら、僕は絶対に信じていなかっただろう。でも、どうして急に真実を話してくれたんだい?」


「ええ……。私はあなたの娘だと嘘を吐いて、近付いた。娘になり切って、その唇を奪おうとチャンスを窺っていたわけ。だけどこの作戦の欠点に気付いてしまった」



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