タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十三幕《暴立》

 第三十三幕《暴立》             




「実は、お父さんが未だ童貞だという衝撃の事実があるのなら、私を疑うのも頷けるね。私はお母さんの娘ではあるかもしれないけれど、お父さんの娘では絶対にないことになる。そしてそれは、お母さんが当時、他の男性と関係と持っていたことを意味する。それってきつい真実だよね。まあ、妄想なんだけど、実際どうなん? お父さんって童貞?」


「あけっぴろげにそんな質問してこないでくれよ。心臓に悪いって。……えっと、僕の曖昧な態度のせいで、変な仮説が生まれちゃったみたいだけど、少なくとも僕は未経験じゃないし、彼女との間に関係がなかったということはない。……年頃の女の子を相手に何を弁解しているんだろうね、僕は」


「深く考えたら負けだよー。ともあれ、私の仮説は外れか。うーん、何なんだろう。私が娘じゃない確信って。教えてって聞いても、お父さんはとぼけるよね?」


「まあ、イエスともノーとも言わない。ノーコメントだ」


「だよね。まあいいや。ゆっくり考えるとしよっと。心の広いレディは気も長いのです。……っと、そうだった、そうだった。出かけようと思っていたんだった」


「今日はどこへ? ショッピング?」


「買い物といえば買い物ですけどね。高校で使う教科書を買うのと、制服の仕立てが終わったから、デパートに受け取りに行ってくるの」


「ああ、制服か。そいつは大荷物になりそうだ。僕も付いていこうか?」


「それには及ばんです。嵩張るけど、ギリ一人で運べる量だし」


「そうか。しかし、そっか、もう四月になるのか。学校が始まるんだな」


「あはは。ちょっと言い方が年寄りっぽいんだけど。その内、一年が経つのは早いなあ、とか言い出しそうな雰囲気。いや一年も経ってねえし、みたいな」


「キナちゃんと出会って、ちょうど一週間だね。あっという間に一週間というか、まだ一週間しか過ごしていないのかって不思議な感覚だ」


「あー、その感じ分かるかも。第一印象も薄れてきちゃったな。最初はどんな風にお父さんを見てたっけ? 記憶があやふや。緊張しながらお父さんって呼んでいた気がするけど、今じゃすっかりナチュラルにお父さんって呼べるし」


「君は最初から馴れ馴れしかったけどね。あれで緊張していたとか嘘だろ」


「嘘じゃないですー。死後硬直並みにガッチガチだったですー。あーあ、女の子の不安を察しれないなんて、お父さんにはがっかりだなぁ。もっとできる子だと思ったのにな」


「どうでもいいけど、早く出かけたら? 帰りが日が暮れちゃうよ」


「あっと、そうだった! 行ってきまーす」


「はい。気を付けて行ってらっしゃい」



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