タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十二幕《内心》

 第三十二幕《内心》             




「もちろん。私の心は大海のように広く、大空のように果てしないよ。私はお父さんがあらゆる可能性を模索して、すべての仮設を否定されて、絶望するのを待つだけだもの」


「絶望する前に止めてあげようぜ。そうなった場合、僕の自業自得だけどさ」


「あらゆる可能性を否定したあとに、残った答えがいくら非現実的なものであっても、それが真実であるって、シャーロック兄さんも言っていることだし」


「君は、世界一の名探偵を兄さんと呼んでいるのかい?」


「おじさんって言うと怒るんだよ、あの人。まいっちゃうよね。もう爺だってのに」


「十九世紀の人だからね。ワトソン博士とも知り合いだったりするのかな?」


「ワトソン? ああ、ワットは痴漢で逮捕されて、女子成分欠乏症によって獄中死したよ。さすが女子高生ハンター、息するインモラルは、死に様も違うよねえ」


「おや……? 僕の知っているワトソンとかなり違うぞ?」


「さて。私の心は深海のように暗黒で、成層圏のように薄情なわけだけど」


「さっき言っていたのと全然違う……」


「もとい、私の心はすっごく広いんだけど、気になるもんは気になるわけよ。どうしてお父さんはこんなに懐疑主義なんだろうって。しつこく私を疑うんだろうって。もしかしたら、お父さんの中に、絶対に揺るがない『何か』があるんじゃないか、と」


「…………」


「理由があって疑っているのか、なくて疑っているのか。お父さんはどっち?」


「……何のことやら。そんな風に言われても、さっぱり心当たりがないな。僕の心情を疑っているのなら、まったくの見当違いだよ、キナちゃん。譲れない訳なんてものはない。僕は理由もなしに、思いつきで疑っているだけさ」


「そう? 本当にそうなの? とてもそうは思えないなあ」


「君がそう勘繰るのも仕方がない。キナちゃんのこと、疑ってばかりだったもんね。謝るよ。ごめん。申し訳なかった。親として失格の態度だ」


「謝ってほしいわけじゃないよ。何かがあるなら教えてほしいだけ。何にもないって言うけれど、でもそれは嘘だよね。さすがに、態度を急に変えたのは怪し過ぎるもの」


「……そんなことはないさ。決め付けはよくないよ」


「よくないかな? 私はそうは思わない。お父さんは何かを隠そうとしている。……まるでお父さんの中に、私が娘ではないっていう確信があるみたい」


「…………」


「だけど、私が娘じゃない確信って、いったい何だろう? あまり思いつかないな。……例えば、お母さんとは一切そういう行為をしてなかった、とか?」



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