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タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十一幕《韜晦》

 第三十一幕《韜晦》              三月三十日 十二時二十一分




『――――、――――?』


「……もしもし? ……って、ああ、お母様ですか? この前に番号を教えたことを忘れて、一瞬誰だと思ってしまいました。お久しぶりです。と言っても、つい数日前に会ったばかりですけど。ええと、今日はどうされたんですか?」


『――――。――――』


「……えっ? す、すみません。もう一度、仰っていただけませんか?」


『――――』


「……そんな。……あ、いや、何でもありません。それはよかった。皆さんもほっとしたでしょう。わざわざ僕にまで連絡してくださって、ありがとうございます。――ええ、まさか家出していたお孫さんが、ひょっこり帰ってきたなんて」


『――――』


「いいえ、僕は何にも……。ともあれ、お孫さんが無事に帰ってきてくれてよかったですね。今後も大変だと思いますが、お母様たちならきっと大丈夫です」


『――――』


「はい。それでは失礼します。頑張ってください。失礼します」


『――……』


「…………ふう」


「……んー? お父さんお父さん。さっきの電話ってもしかして、お母さんのお母さん、つまり私のお祖母ちゃんから? ちょっと話の内容、聞こえちゃったけど」


「ああ……。家出中だったお姉さんの長女が見つかったみたいだ。今、お母様の家で匿っているって。元々の原因が、お姉さん夫婦の不仲で、そんな家にいたくないからで、だからその問題が解決されるまで、お母様の家に住ませるつもりだってさ」


「ふうん。めでたしめでたしだね。顔も名前も知らない姪っ子ちゃんだけど、何の事件に巻き込まれてなくてよかった。血縁的には私のいとこに当たるんだよね」


「……キナちゃんが言っていたのはこういうことかい? 時間が経てば分かるって」


「んー? さあてどうでしょう。こういう結末も想定していたけれども、当たるも八卦、当たらぬも八卦で言った戯言だから、当てた気はしないね」


「結局、君は姪ではなく、僕と彼女の娘だってわけか」


「どうして残念そうなのかな。そろそろ私を疑うのも疲れてきたんじゃないの?」


「信じてあげたいと思っているんだけどね。他の可能性を思いつくと、つい」


「酷い父親だ。ま、好きなだけ疑っていいよ」


「ふむ? 随分と心が広いな」



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