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タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三十幕《信念》

 第三十幕《信念》                




「信条なんて、その日の気分で変えるファッションみたいなもんなんだから、適当でいいんだよ。今日だけ初志貫徹! みたいな。石橋を叩いて渡る振り! みたいな」


「恐ろしく誠意のない信条も、あったもんだね」


「お父さんの信条はあれだっけ? 他人を見たら泥棒と思え、だっけ」


「違うよ。自分が疑り深いのは、まあ自覚しているけど。っていうか、それはことわざだろ。僕のスタンスは何が本当なのか、真実を見極めたいだけだ」


「真実を見極める? 真実なんてクソでしょ。真実なんてものはどこにも存在しない。あるのは大衆に信じさせるために作られた、耳心地のいい『真実』という名の幻想だけ。そんなものを知ったところで何の役にも立たないよ。まあ、役に立つ情報っていうのも少ないし、役立つことがすべてじゃないけれど」


「どうして君がそこまで悟ってるのか知りたいね。どんな女子高生だよ、キナちゃん」


「昔に色々とあったのよ。そう……、色々と、ね」


「それは意味ありげに言っているだけだろ。さすがに騙されないぞ」


「さすがに騙されてくれないっすか。あら残念」


「君のそういう正直なところ、嫌いじゃないよ。正直は美徳だからね。基本的に正しいものだ。でも玉に瑕って言葉を知っているかな?」


「え? たまになら別にいいんじゃない? たまには刺激も必要でしょ」


「それはたま違いだ。たまに瑕って、何だそれ。新しいことわざ作っちゃっているし。いつもは美点なんだけど、時々問題になるって意味かな。あながちありそうな気がする。キナちゃんの場合、たまにどころか常に瑕って感じだよね」


「いえいえ。それほどでも。褒めても何も出ないぞ~?」


「うん、褒めていない。さてと、そろっとご飯にしようか。荷物を運んできて、お腹空いているだろ?」


「オーイエース。レッツ、ディナーターイム! ワタシ、お腹ぺこぺこデース」


「よっし、似非アメリカ人。料理を温め直すから、ご飯よそって待っててくれ」


「オッケーデース。さてさて、今日の晩御飯は何でしょう~? ……ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、牛肉の入った真っ赤なスープ。ふむふむ、これってあれだね!」


「知ってるのかい? ロシアの郷土料理だよ」


「当然。ジャガイモの入った、ロシアの料理と言えばあれしかないよ」


「随分と自信ありげじゃないか。よろしい。では答えてくれたまえ」


「これはポトフだね!」


「ボルシチだよ」



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