タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第二十九幕《否定》

 第二十九幕《否定》                




「姪っ子、ね……。どうしてその答えに至ったか、聞かせてくれる?」


「うん……。今日の昼間、彼女の実家に行ったのはさっき話したとおり。そこで、彼女の母親と話をしてきたんだ。そのときお姉さんの家庭の話を聞いて、娘さんが現在家出中だと教えてもらった。しかも、その子は今年から高校生になる。君と同じ歳だ」


「辻妻が合うね。怖いほどだ。それで、私が姪御さんだと」


「ああ。君は家出中の姪御さんで、十六年前に行方不明になった叔母……彼女の娘の振りをして僕に近付いた。そして匿ってもらおうとした。当然だけど、彼女が突然行方不明になった過去と重ねて、家族の皆さんは随分と心配しているらしい。もし君が僕の考えたとおり、彼女の姪御さんなら、今すぐ家に帰らせなきゃいけない。絶対に」


「…………」


「どうなんだい? 黙っていちゃ分からないよ」


「そうね、どう言ったらいいもんかな……」


「答えるのを躊躇うってことは、当たりかい? YESなのか?」


「NO。NOだよ。答えを焦らないで、お父さん」


「NO? それは本当に?」


「さあ……。時間が経てば、どうだか分かるんじゃない?」


「……どうしてはぐらかすんだ。NOなら、はっきりとNOと……」


「今のお父さんには、どんなことを言っても無駄だと思うから。ま、私がその姪御さんだと思うんなら、私をお母さんの実家に連れて行けば? 一発で答えが分かるよ」


「…………」


「お父さんだって、口では言いつつも、本当は違うかもって思っているんでしょ? 確信してるんなら、私の腕を引っ張って連れて行けばいいんだもんね」


「いや、違うよ。君の口からはっきりと答えてもらいたかっただけだ」


「もう一回はっきり答えるよ。答えはNO。私はお母さんの姪じゃない」


「あそう……。今はその言葉を信じることにする。変なこと聞いて悪かったね」


「ん、別にいいよ。よくあるよくある」


「……そういや、さっき言っていた、時間が経てば分かるってのは、どういう意味?」


「そのまんまの意味だけど。新しい情報が入ってきたり、家出している姪っ子ちゃんがアクションを起こせば、また別に答えが見えてくるでしょうね、ってこと」


「まんまだね。意味ありげに言うから、何か知っているんかと思っちゃったよ」


「私は何も知りませんとも。無知蒙昧が信条の私です」


「信条にするには、自虐が過ぎやしないか? それ」



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