タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第二十八幕《邪推》

 第二十八幕《邪推》                




「ただいまー。あー、重たっ! ダンボール三個重たっ! もう運べなーい。お父さーん、運ぶの手伝ってー。…………お父さーん? あれ、いないのー? どこにいますかー……って、ちゃんといるじゃん。もう、いるのなら返事くらいしてよね」


「……ああ、お帰りなさい。キナちゃん、ちょっとこっちに座ってくれる?」


「んー? 何? 大事な話?」 


「少し真面目な話。時間は取らないようにするから」


「時間は別にいいけど。……ふうん? 妙に渋い雰囲気かと思ったら、どうしたのその格好。喪服? どうして喪服なんか? いったい今日どこに行ってたの?」


「スーパー銭湯」


「喪服で?」


「銭湯に行くのに服装は関係ないだろ?」


「お風呂に入ったのに髪の毛は濡れてないし、線香の香りがしたままなの?」


「ご明察。本当は、彼女の実家に行ってきた」


「お母さんの実家に? それで何で喪服、ってああ、そうか」


「そう。彼女が行方不明になってから十六年。捜索届が出されて七年で、戸籍的に死亡扱いにされる。葬式は行われなかったはずだけど、仏壇に彼女の位牌があったよ」


「プライベートな用事って、お母さんの見舞いのことだったんだ。言ってくれれば、私も付いていったのに」


「彼女の家族の人たちは、君のことを知っているのかい?」


「知らないってこと、とっくに分かっているんでしょ? それを確かめに、お母さんの実家に行ったんでしょ。回りくどい話は止めてね。本当は何が聞きたいの?」


「すまない。こういう性分でね。質問だけど、なぜ彼女の家に行ってないんだ? てっきりそっちとも話が済んでいるのかと思ったけど」


「必要ないと判断したから。認知してもらう相手がいないし、大体、どんな顔をして会いに行けばいいの? 私は十五年前に蒸発してしまった、あなた方の娘に捨てられた子供です、って? 私は、傷口に塩を塗るような真似はしたくないの」


「君の存在が塩になるかどうかは、会ってみなきゃ分からないだろ。じゃあ次の質問だ。こっちが本題と言ってもいい」


「回りくどいのはやめてって言ったのに、結局、回りくどいなあ」


「彼女には六歳上の姉がいる。そして、お姉さんには娘がいるらしい」


「…………」


「君の正体は、お姉さんの娘。つまり、彼女の姪っ子じゃないのかい?」



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