タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第十六幕《余裕》

第十六幕《余裕》          




娘「もふもふ。ぬりぬり。ぱくぱく」


「……その擬音、必要? 突っ込み待ちだよね、それ」


娘「これぞ、女子が持つ三千三百のスキルの一つ。『少女マンガ的効果音』!」


「そんな低レベルのスキルをあと三千個も持ってんの? 女子って」


娘「男子だってするでしょ。『ドカーン』とか『ズコーン』とか『ズベシ』とか」


「『ズベシ』ってのは聞いたことないかな……」


娘「ところでお父さん。本日のご予定は?」


「ん。ないね」


娘「え、ないの? てっきり、再就職であたふたしてるんかとばかり」


「何件か、昔の取引先に声は掛けてもらっているよ。ヒラからスタートだけど、贅沢を言う気はない。退職金とか失業保険の受け取りとか税金とかの処理も、もう済んでいる」


娘「お父さんって、本当にそつがないねー。ピンチでも平常心というか」


「そういう君こそ、今日はどんな予定?」


娘「うん? 特になし」


「ないんかい。何だかんだ余裕あるな、君も」


娘「まあ、昨日の初対面でこんないきなり、上手い具合に拾ってもらえるとは思っていなかったから。予定では、この春休みを掛けて、お父さんを説得する気でいました」


「なるほど。でも僕はまだ説得されたわけじゃないからな」


娘「とりあえず結論を保留して、状況にずるずると流されているだけだもんね」


「隙あらば、僕を貶めようとしてくるなあ。そのチャレンジ精神は何だよ」


娘「偉い人は言いました。『男に隙を見せたら駄目よ。甘えていると思われて付け込まれるから。男が隙を見せてきたら突きなさい。それは単なる油断』」


「何だその新宿ナンバーワンホステスをやっているようなプロの格言は」


娘「まあ、私がさっき考えた適当名言なんだけど」


「あっそ。君のことだから、薄々そんなことだろうと思っていたよ」


娘「予定がないなら、お父さん、今日は私とデートしない?」


「デート? どこに?」


娘「どうしてって聞かない辺り、朴念仁じゃないねー。行き先はショッピング!」


「ショッピングは目的だろうに。デパート?」


娘「ううん。モール。二駅行った先にあるおっきいところ。食器とか服とか揃えたいんだけど、お父さんもちょっとインテリア見た方がいいよ。この家、地味すぎ」


「実に余計なお世話、だ」



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