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タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第十三幕《起床》

 第十三幕《起床》                三月二十五日 七時三十分




娘「おはようございます。お父さん」


「うん、おはよう。よく眠れたかい」


娘「お陰さまで。朝食ができたらって言ったけど、朝はパン派なんだね」


「食べながらでもいいから、真面目な話をしよう。これからの生活の話だ」


娘「バターぬりぬり。食パンもふもふ。牛乳ごくごく。うん、いいよ」


「そのわざとらしい擬音はなんだ。ええと、昨日に確認し切れなかったお互いの現状だ。まず僕は一週間前に会社を辞めて、今は無職。休職中だ。だからこんな朝っぱらにゆっくりしていても大丈夫」


娘「説明的だね。じゃあ私もそれに合わせて。私はつい三日前に中学校を卒業して、児童養護施設を出てきた。今年の春から花の女子高生。今は春休みの真っ只中」


「君は僕の娘で、十六年前に行方不明になった彼女の娘だと主張する。十五歳になって、自分の意思で養子縁組の相手を選べるようになって、それで僕を選んだ」


娘「タイムカプセルを埋めた樹のところで待ち伏せして、お父さんに拾わせた。だけどお父さんは心当たりあるような気もするけど、いまいち確証が持てなくて認知しかねている。とりあえず話を聞くために、私をお家にお持ち帰りした」


「その不名誉な言い方はやめなさい。ええと、まあ、ここまでの経緯はそんな感じで、ここからがシビアな本題なんだけど、正直、僕に君を養えるとは思えない」


娘「ふむふむ。話を詳しく伺いましょう。その心は?」


「まず、生活費の点。僕は休職中。君も恐らくお金を持っていない。財政状況が不安定だ。次に君への義理とか、愛情とか、そういうものが僕の方にない。見も知らない女の子が訪ねてきて『あなたの娘です。今日から住まわせてください』なんて言われても、無理なものがある。急に二人暮らしをするというのも、精神的にきついものがある」


娘「おおっ! シビアだね。マジ拒絶の奴だこれ」


「それで三つ目が、君の話がどこまで真実かが疑わしいこと。一応まだ、美人局的な詐欺とか性質の悪い悪戯って可能性は考えている。言われてみると彼女の面影があるような気もするけれど、何となく似ているってだけで、確信は持てない。たとえ、彼女の娘というのが本当だとしても、僕との子供っていう疑いは残る」


娘「怪しいのは自覚しているよ。そう簡単に信じてもらえないだろうってのは」


「一晩考えてみて、君を養うメリットはほぼないと結論した。何か反論は?」


娘「うーん。ないにゃー。理路整然として完璧ですわー」


「……あれ? あっさり引き下がるんだね。もっと食い下がるんかと……」


娘「でも、お父さんは本当にそれでいいの?」



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