タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第六幕《刺激》

 第六幕《刺激》              




娘「ところでお父さん。話を戻すけど、今夜の夕飯は何だった? カップ麺?」


「違うけど。言っとくけど、うちにはすき焼きの材料はないぞ。カップ麺のストックはいくつかある。お腹空いているなら、カップ麺あげるけど」


娘「やだ。ダメ。カップ麺食べたくない」


「何で?」


娘「好きくないから」


「好き嫌いはよくないよ」


娘「何で?」


「何でって、何が?」


娘「どうして、食べ物の好き嫌いは駄目なの?」


「いざそう聞かれると分からないね。きっと健康に良くないからかな?」


娘「私の身体よ! 私の好きにして何が悪いの?」


「悪いとか、悪くないとかの話じゃなくてね……」


娘「お父さんたら、いちいちうるさいんだから! こんな家、出てってやる!」


「せめて玄関に入ってから言ってほしかったなぁ、それ」


娘「あ……。さっきの会話、とても家族らしかったんじゃない?」


「いやぁ、理由もなく親に反抗する年頃の娘っぽかったよ。お見事」


娘「やんややんや」


「カップ麺もあるけど、大丈夫、ちゃんとご飯を作ってあげるよ」


娘「そろそろ着く? 噂の3LDK」


「もう着くよ。あのマンションの七階がそう」


娘「七階のフロア全部がお父さんの部屋なのね。素敵!」


「いや、普通に一室だけだけど」


娘「そんなの分かっているって。つまらないこと言わないでよ、禿げるよ」


「僕くらいの年代の男性に根拠もない暴論を押し付けるのはやめなさい」


娘「あーあ、つまらない大人にだけはなりたくないなー。だって、ねえ……?」


「やめろ。やめろやめろ。それ以上言うな。成人男性を刺激するな」


娘「ええっ? 刺激だなんてそんな……。私はそんなつもりは毛頭も……」


「あるだろ。そのセリフはありありだろ」


娘「刺激するんだとしたら、毛根ぐらいよ」


「いや、上手いこと言えてないからね」


娘「ともあれ。とうちゃーく、と」



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