タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第二幕《揺篭》

 第二幕《揺籠》              




娘「よくぞ聞いてくれました。これには並々ならぬ訳があるのです」


「どんな訳があったら、女の子が地面の下で寝ることになるのかな。手を貸すよ、ほら、手を伸ばして。……持ち上げるよ?」


娘「っと。ありがとう。素敵なお父さん」


「だから僕はお父さんじゃない。身に覚えがないんだって」


娘「そんなわけないでしょ? だって、こうしてタイムカプセルを掘りに来たじゃん。お母さんと十五年前に埋めた、思い出のカプセルを。こんな真夜中にスコップを抱えて、せっせと母校のグラウンドの端っこにある樹のそばにやってきて。あなたがお父さんじゃなかったら、他の誰をお父さんと呼べばいいのさ」


「さあ……。この穴、君が掘ったの? 元から開いていたわけじゃないよね」


娘「あ、話をすり替えに来たな! 誤魔化されないぞ私!」


「とにかく、一つ聞いていい? とてもシンプルなこと」


娘「『とにかく』? 何がとにかくなの? 私にとってはとってもとっても重要なことなんだから、そんな軽々しく横に押しやらないでよ! 『それはともかく』とか、『横に置いといて』とか、相手を馬鹿にしているとしか思えない! 絶対に許せない!」


「まあまあ……。そういうつもりで言ったんじゃなくて、えっと、質問するよ」


娘「いいよ。私のことを認知してくれるんなら」


「うん。それはともかくね」


娘「むきー! また言った! また私を脇に追いやった!」


「どうして、その、君はタイムカプセルの横で寝ていたんだい?」


娘「ん? えへへ……。それは揺りかごだから」


「『ユリカゴ』? ユリカゴって……、揺りかご?」


娘「そう。私はカプセルで産まれ、カプセルに揺られ、カプセルで育った」


「そんな、非現実的な……」


娘「ちょっと大袈裟に言ってみただけ。つまり、ロッカーベイビーだよ。知ってる? ロッカーベイビー。ロックンロールベイベー」


「後者は存じ上げないけど、まあ、ロッカーベイビーは聞いたことあるよ。僕の身の回りで聞いたのは君が初めてだけど。じゃあ君は捨て子なのか? 駅のロッカーに捨てられた赤ん坊と同じで、タイムカプセルを埋めた樹のそばに捨てられた子供?」


娘「そう。あなたのね」


「母親は?」


娘「知らない。どこかに行ってしまった。きっともう死んでいる」



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