タイムカプセル・パラドックス

宇佐見きゅう

第三幕《血縁》

 第三幕《血縁》             




娘「私のお母さんは、現在行方不明でね。私にはもうお父さんしかいないの」


「……分かった」


娘「分かってくれたの!?」


「まだ全部に納得したわけじゃないけど。君が、僕が十六年前に埋めたはずのタイムカプセルのそばにいた理由は、分かった。でも、まだ君が、偶然タイムカプセルを埋めた樹のそばに捨てられたって可能性はある。根拠にするには足りない」


娘「えっ? 親と子供の絆に根拠が必要?」


「必要だよ。だって、君と僕はこれが初対面だもの」


娘「私とお父さんは、確かに初対面だね」


「初めて会った」


娘「そう? 私は初めて会った気がしない」


「実を言うと、僕もそうだ。初対面でこんなに盛り上がれるのは初めてだ」


娘「ほら見て! これが親子の絆。家族の愛の美しさ……♪」


「うーん……。大体さ、君、年はいくつだい?」


娘「今年で十六歳」


「今年から高校一年生だね。若々しくて素晴らしい。ちなみに僕、老けて見えるかもしれないけど、これでもまだ三十代前半なんだよ」


娘「うん、そう卑下することはないと思う。充分若々しいよ」


「ありがとう。でもそういうことじゃなくて。あのさ、君が現在十五歳ってことは、僕がいくつのときの子だい」


娘「やだ、お父さんったら……。暗算もできないくらい痴呆症? いい? 三十二引く十五をすればいいんだよ。じゃあ、まず十二引く五をやってみようね」


「僕を若年性痴呆症みたいに言うな、自称娘。僕の年齢、知っているんだな」


娘「そりゃあ、娘ですもの。えっへん」


「じゃあ、いったい誰との……?」


娘「誰って、もしかして、昔好きだった女のことも忘れてしまったの?」


「『昔好きだった女』……」


娘「昔々に付き合っていた彼女さん。いたでしょ? いなかったとは言わせないよ。彼女のこと、私のお母さんのこと、忘れたとは言わせないよ」


「……そんなの」


娘「ん?」


「何でも、ない」



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