アンダースロー

文戸玲

すれ違い


 真由とは小学校一年生の頃からの親友だ。クラスが離れてもずっと一緒だよ。中学校に行ってもずっと仲良しだよ。そう約束していた。だから,中学校へ進学してすぐは,必ず一緒に帰っていた。それなのに,ほんのささいな食い違いや行き違いで一緒に過ごす時間は短くなり,とうとう一緒に登下校をしなくなった。私も真由も,どこかで誤解を解く努力をすることにわずらわしさを感じ,わずかながらに意地も張っていたのかもしれない。
 ポケットの中にはつるつるの石が入っている。つるつるとして綺麗な渦模様が入った丸くて平らな石を投げることはないが,それでもかまわない。去年の夏,お気に入りの石に一つ願いを込めて水切りをしよう。たくさん跳ねた方の夢が叶うんだ。二人で夢を乗せて,一斉に投げようと言ってそのままになっていた。石を投げるには惜しいから,二人で写真たてを作って,思い出の写真を飾り付けよう。その写真たてに,二人のお気に入りの水切り石を飾ろう・・・・・・そう誘うつもりだった。真由だって,私が声をかけるのを待っているはずだ。
 真由の姿が目に入った。廊下に出て,私がいる方向に向かってくる。
 すると,自分では意識しないうちに,私は自分の体温が上がっていくのをはっきりと感じた。喉の方が締め付けられるように息苦しくなり,耳がゆでだこのように赤くなっているのではと感じるほどに熱くなった。熱を放出するように一つ息を吸って吐く。そして,一歩踏み出した。
「真由ーー」
私の声と,廊下から別の子が真由に声をかけたのが同時だった。真由は一瞬こちらを見て口を開きかけた後,廊下から寄ってきた子に何か答えながらこちらから顔をすっと背けた。そして,行ってしまった。わたしは映画のコマ送りを見ているようにその瞬間をぼーっと眺めていた。
 ふと我に返った時,教室から大本君がこちらを見ていることに気付いた。私は耳を赤くし,表情が引きつっているのが分かる。さっきよりも喉がずっと狭くなったような気がして,息が苦しい。にぎったこぶしも震えている。バツが悪くて廊下の窓に駆け寄り,下をのぞく。どこもかしこも,楽しそうに友達と談笑している。西日が強く窓から顔を出した私を照らした。視界に太陽をいれたせいで,貧血を起こした時のように目がちかちかして残像のようなものが見える。
 私は知り合いを探しているふりをして人ごみを眺めた。本当は探したい人なんていないのに。一緒に話しながら登下校をしたいのは,真由だけなのに。

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