同僚マネージャーとヒミツの恋、担当アイドルにバレてはいけない……
第19話 明日からの私達
「遅くなる前に帰りましょうか。明日も早いですからね……」
「はい」
ちょっと名残惜しい。
「最後に観覧車、乗ってもいいですか?」
「もちろんです」
「『ヒラ刑事』でもラストシーンが観覧車だったんですよ!」
「ほうほう」
私達はそこそこ人のいる観覧車の列に並ぶ。
夕日が園内を照らしつつあった。
観覧車のカゴに乗り込み、向かい合う。
観覧車の窓から外を見れば、夕日に照らされた都会が見えた。
「今日は楽しかったです。深海さん、ありがとうございました」
「いえ、僕の方こそ……来れてよかった。由香さんが楽しんでくれてよかった……雨降って地固まる、なんて言葉はキレイすぎると思いますけど……」
「キレイすぎてもいいんじゃないでしょうか。たまには」
「……はい」
観覧車が上に上がっていく。
深海さんが、メガネを外した。
ギィと観覧車が軋む。
深海さんが私の方に身を乗り出す。
顔が近付く、目を閉じる。
「ん……」
キスは、長かった。
「ん……は……んん……」
じっとりとねっとりと、息が出来ない深いキス。
体中が熱を持つ。
苦しい。やんわりと胸を叩けば、深海さんは私を解放してくれた。
深海さんはメガネをかけ直す。
私の顔は夕日に照らされなくても真っ赤だというのに、深海さんは爽やかな顔でしれっとしている。
たぶん、私は敵わないんだろう、この人に。
それでも、いい。
この人が私を愛してくれるなら、私もこの人を愛していたい。
観覧車が下り始める。
私は真っ赤になった顔を反らすために外を見る。
どんどんと下る観覧車の中、私達は無言だった。
でも、それは決して嫌な沈黙じゃなかった。
観覧車を降りて、遊園地を出る。
深海さんの車に乗って、帰路につく。
「夕ご飯、どうしましょう? 何か食べたいものあります?」
「……奢りたいです! だから深海さんが食べたいもので!」
「いやいや、デートですから僕が出しますよ」
「約束しました! 最初に会ったとき、私が就職したらお礼に奢るって!」
「あー……」
深海さんは思い出してくれたらしい。
「えっと……じゃあ、どうしようかな……あー最近食べてないので中華で……」
「近くのお店調べますね!」
「あ、はい」
「北京ダック……あ、点心。点心美味しいですよね。お好きですか点心?」
「いいですね、点心」
「ええっとそれじゃあ……」
私の道案内で車が走る。
中華はとても美味しかった。
深海さんに家まで送ってもらう。
深海さんは車から降りて、私の部屋の前まで送ってくれた。
「……ああ、帰すの嫌だな」
深海さんは、私の体を抱き留めてそう言った。
「深海さん! そ、外では……あの……」
「ねえ、由香さん、やっぱり僕の家に住みましょう?」
「ぜ、善処します……」
私はまだ名残惜しそうな深海さんの手をなんとか振りほどいて、部屋に入った。
「おやすみなさい、深海さん」
「はい、おやすみなさい、由香さん……」
部屋のドアを閉め切る一瞬前まで、深海さんはそこにいた。
「……よし!」
明日も早い。
朝の情報番組にシュンくんを連れて行くのだ。
そして午後には新曲の打ち合わせだ。
「おやすみなさい」
私は胸の中の深海さんに声をかけた。
「おはようございます」
今日もシュンくんは後部座席で眠っている。
私は小さく深海さんに声をかけた。
「おはようございます。今日は母屋さん、棟方さんといっしょです」
棟方さん、棟方愛梨、『刑事藤野の初恋』のヒロイン役だ。
アラサーの売れっ子女優。演技派、サバサバした感じでバラエティーでも人気がある女優さんだ。
「……お二人ともレッドウェル芸能事務所でしたね……」
「……そうですね」
しかし、先日の河川敷の撮影に赤井アルファさんはいなかった。
少なくとも母屋岸見のマネージャーではない、はずだ。
深海さんの横顔をうかがう。
レッドウェル芸能事務所の名前に複雑そうな顔をしていた。
テレビ局は先日、トライアングルアルファがコメント撮りと歌撮りをしたのと同じテレビ局、『刑事藤野の初恋』もこのテレビ局だ。
シュンくんを揺り起こし、テレビ局に入る。
「シュンくん、まず、着替えお願いします!」
「はい」
深海さんがスタッフさんに訊ねる。
「母屋さんと棟方さん、入られてますか?」
「まだです」
「ありがとうございます」
今日の控え室は1人分と言うこともあり、狭めのところだった。
シュンくんは控え室に入ると同時に服を脱ぐ。
私は目をそらす。
「……慣れませんねえ」
「慣れません……」
シュンくんは鑑識の衣装に着替えた。
「母屋さん、棟方さん、入られましたー!」
「あいさつ行きます?」
「あちらも着替えられるだろうし、打ち合わせで」
「はい」
コンコン、と控え室の戸を叩く音がした。
「はーい?」
深海さんが答えた。
「久しぶりー、深海くん、シュン」
赤井アルファさんがそこにいた。
「アルファ……さん……」
深海さんは固まった。
「お久しぶりです、赤井さん」
シュンくんは事務的に頭を下げた。
「シュンは元気そうね、どう? 大学」
「まだガイダンスが始まったばかりなので……」
「そう、深海くんは? 元気してる?」
「……おかげさまで」
「そう!」
「打ち合わせお願いしまーす!」
廊下から声がかかる。まだ話の途中だ。
「あ、わ、私が、シュンくんについて……」
「いえ、僕とシュンが行きます……いいですか?」
深海さんは私に目を合わせてそう言った。
「もちろんです」
私は、答えた。
「じゃあアルファさん、失礼します」
「はいはーい」
アルファさんは手を振った。
シュンくんと深海さんが退室し、私とアルファさんが取り残された。
私は思いっきり深呼吸した。
「……深海さんとシュンくんに会えてよかったですね?」
「そうね! 元気そうで安心した!」
「……赤井さんは、母屋さんか棟方さんのマネージャーなんですか?」
「ううん。もうちょっと包括的な立場なの。だからちょっと自由な私なのです」
「そうなんですね……」
赤井アルファさんの立場がどういう立場なのか私には分からない。
「……それでご用は済みました?」
「そうね。元気そうな姿見られたから一安心ね。これでも責任感じてるのよ、急に辞めちゃったから、トライアングルアルファのことも……深海くんのこともね」
含みがある。
「……私、今、深海さんとお付き合いしています」
「あら、そう」
アルファさんの表情はサングラスに隠れて見えなかった。
今日もアルファさんの服装は黒いミニスカと黄色い原色のカットソー、シースルーの上着。
派手だ。
ただのブラックスーツの私とは大違い。
「深海くんねえ、あんなに大人ですみたいな顔してけっこう激しいでしょ?」
「…………そう、ですね」
受け答えを、どうするか。私は迷いながら、彼女に向かい合う。
「大丈夫? 体もつ?」
「ええ……あなたに心配してもらう必要はありません」
「ふふふ」
赤井アルファは口の端を釣り上げた。
強そうな笑顔だった。獲物を前にした肉食獣。そんな感じ。
「まあ、あなたなら大丈夫でしょ、深海くんも。私は……あの子と一緒にいるにはちょっと自由すぎたって言うか……束縛強いもの、彼」
「今の旦那さんは束縛が強くないから元カレにも会いに来るんですか?」
我ながら、ひどい言葉だ。あまりにも攻撃的だ。自分で自分に引く。
「うん」
アルファさんはさらりと答えた。私の発言など意にも介していない。
「私の旦那、多分、私が浮気しても気にしないわよ……深海くんとでもね」
「そうですか。深海さんに相手にされたら良いですね」
言った。言ってしまった。
だけどまだだ、もっと言わなくては。
今までのは女として言いたかったことだ。
これからのことはトライアングルアルファのマネージャーとして言わなければいけないことだ。
「……トライアングルアルファに会いに来るの、やめてもらえます? せめてアポを取ってください。あの子たちがあなたがいなくなってどう思ったか……私には分かりません。でも、エイジくんとシュンくんがあなたのこと赤井さんって呼んでいる。それだけで……少し分かります」
赤井アルファの旧姓は三角だ。彼らは赤井アルファが事務所にいたときはアルファさんと呼んでいただろう。
それなのに今は赤井さんとかたくなに呼んでいる。
呼び慣れないだろうに、赤井さんだ。
「……分かったわ」
アルファさんの表情は、相変わらず読めない。
それでもその声には少しばかりの慎みのようなものが感じられた。
「じゃあ、機会があったら正式にアポを送るわ。バイバイ、由香ちゃん」
「さようなら、アルファさん」
「……深海くんにヨロシク」
「嫌です」
「あはは、良い子ね、由香ちゃん」
アルファさんは嬉しそうに笑って、去って行った。
「はあ……」
息を吐いて、控え室の畳にしゃがみ込む。
「……収録」
多分控え室には帰ってこずに直接スタジオに行くだろう。
そして私にテレビ局の土地勘はない。
おとなしく控え室のテレビを付けて、生放送の時間を待った。
シュンくんは生放送もそつなくこなした。
というか母屋さんと棟方さんが中心で、シュンくんは最後にCDを宣伝する役回りだった。
母屋さん、棟方さん、シュンくんがCDを手に持って、生放送は終わった。
「『刑事藤野の初恋』、来週月曜21時から! よろしくお願いします!」
そんな言葉とともにCMに移った。
「ふー……」
ため息をついていると深海さんとシュンくんが戻ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいまです」
シュンくんはすでに鑑識の上着を脱ぎ、その下のシャツに手をかけていた。
私はお約束のように目をそらす。
深海さんが何か言いたげな顔をしたけど、私は視線でそれを制した。
アルファさんのことは、シュンくんの前では話したくなかった。
そんなことより事務所に帰ったら新曲の打ち合わせだ。
私はそれが楽しみだった。
「はい」
ちょっと名残惜しい。
「最後に観覧車、乗ってもいいですか?」
「もちろんです」
「『ヒラ刑事』でもラストシーンが観覧車だったんですよ!」
「ほうほう」
私達はそこそこ人のいる観覧車の列に並ぶ。
夕日が園内を照らしつつあった。
観覧車のカゴに乗り込み、向かい合う。
観覧車の窓から外を見れば、夕日に照らされた都会が見えた。
「今日は楽しかったです。深海さん、ありがとうございました」
「いえ、僕の方こそ……来れてよかった。由香さんが楽しんでくれてよかった……雨降って地固まる、なんて言葉はキレイすぎると思いますけど……」
「キレイすぎてもいいんじゃないでしょうか。たまには」
「……はい」
観覧車が上に上がっていく。
深海さんが、メガネを外した。
ギィと観覧車が軋む。
深海さんが私の方に身を乗り出す。
顔が近付く、目を閉じる。
「ん……」
キスは、長かった。
「ん……は……んん……」
じっとりとねっとりと、息が出来ない深いキス。
体中が熱を持つ。
苦しい。やんわりと胸を叩けば、深海さんは私を解放してくれた。
深海さんはメガネをかけ直す。
私の顔は夕日に照らされなくても真っ赤だというのに、深海さんは爽やかな顔でしれっとしている。
たぶん、私は敵わないんだろう、この人に。
それでも、いい。
この人が私を愛してくれるなら、私もこの人を愛していたい。
観覧車が下り始める。
私は真っ赤になった顔を反らすために外を見る。
どんどんと下る観覧車の中、私達は無言だった。
でも、それは決して嫌な沈黙じゃなかった。
観覧車を降りて、遊園地を出る。
深海さんの車に乗って、帰路につく。
「夕ご飯、どうしましょう? 何か食べたいものあります?」
「……奢りたいです! だから深海さんが食べたいもので!」
「いやいや、デートですから僕が出しますよ」
「約束しました! 最初に会ったとき、私が就職したらお礼に奢るって!」
「あー……」
深海さんは思い出してくれたらしい。
「えっと……じゃあ、どうしようかな……あー最近食べてないので中華で……」
「近くのお店調べますね!」
「あ、はい」
「北京ダック……あ、点心。点心美味しいですよね。お好きですか点心?」
「いいですね、点心」
「ええっとそれじゃあ……」
私の道案内で車が走る。
中華はとても美味しかった。
深海さんに家まで送ってもらう。
深海さんは車から降りて、私の部屋の前まで送ってくれた。
「……ああ、帰すの嫌だな」
深海さんは、私の体を抱き留めてそう言った。
「深海さん! そ、外では……あの……」
「ねえ、由香さん、やっぱり僕の家に住みましょう?」
「ぜ、善処します……」
私はまだ名残惜しそうな深海さんの手をなんとか振りほどいて、部屋に入った。
「おやすみなさい、深海さん」
「はい、おやすみなさい、由香さん……」
部屋のドアを閉め切る一瞬前まで、深海さんはそこにいた。
「……よし!」
明日も早い。
朝の情報番組にシュンくんを連れて行くのだ。
そして午後には新曲の打ち合わせだ。
「おやすみなさい」
私は胸の中の深海さんに声をかけた。
「おはようございます」
今日もシュンくんは後部座席で眠っている。
私は小さく深海さんに声をかけた。
「おはようございます。今日は母屋さん、棟方さんといっしょです」
棟方さん、棟方愛梨、『刑事藤野の初恋』のヒロイン役だ。
アラサーの売れっ子女優。演技派、サバサバした感じでバラエティーでも人気がある女優さんだ。
「……お二人ともレッドウェル芸能事務所でしたね……」
「……そうですね」
しかし、先日の河川敷の撮影に赤井アルファさんはいなかった。
少なくとも母屋岸見のマネージャーではない、はずだ。
深海さんの横顔をうかがう。
レッドウェル芸能事務所の名前に複雑そうな顔をしていた。
テレビ局は先日、トライアングルアルファがコメント撮りと歌撮りをしたのと同じテレビ局、『刑事藤野の初恋』もこのテレビ局だ。
シュンくんを揺り起こし、テレビ局に入る。
「シュンくん、まず、着替えお願いします!」
「はい」
深海さんがスタッフさんに訊ねる。
「母屋さんと棟方さん、入られてますか?」
「まだです」
「ありがとうございます」
今日の控え室は1人分と言うこともあり、狭めのところだった。
シュンくんは控え室に入ると同時に服を脱ぐ。
私は目をそらす。
「……慣れませんねえ」
「慣れません……」
シュンくんは鑑識の衣装に着替えた。
「母屋さん、棟方さん、入られましたー!」
「あいさつ行きます?」
「あちらも着替えられるだろうし、打ち合わせで」
「はい」
コンコン、と控え室の戸を叩く音がした。
「はーい?」
深海さんが答えた。
「久しぶりー、深海くん、シュン」
赤井アルファさんがそこにいた。
「アルファ……さん……」
深海さんは固まった。
「お久しぶりです、赤井さん」
シュンくんは事務的に頭を下げた。
「シュンは元気そうね、どう? 大学」
「まだガイダンスが始まったばかりなので……」
「そう、深海くんは? 元気してる?」
「……おかげさまで」
「そう!」
「打ち合わせお願いしまーす!」
廊下から声がかかる。まだ話の途中だ。
「あ、わ、私が、シュンくんについて……」
「いえ、僕とシュンが行きます……いいですか?」
深海さんは私に目を合わせてそう言った。
「もちろんです」
私は、答えた。
「じゃあアルファさん、失礼します」
「はいはーい」
アルファさんは手を振った。
シュンくんと深海さんが退室し、私とアルファさんが取り残された。
私は思いっきり深呼吸した。
「……深海さんとシュンくんに会えてよかったですね?」
「そうね! 元気そうで安心した!」
「……赤井さんは、母屋さんか棟方さんのマネージャーなんですか?」
「ううん。もうちょっと包括的な立場なの。だからちょっと自由な私なのです」
「そうなんですね……」
赤井アルファさんの立場がどういう立場なのか私には分からない。
「……それでご用は済みました?」
「そうね。元気そうな姿見られたから一安心ね。これでも責任感じてるのよ、急に辞めちゃったから、トライアングルアルファのことも……深海くんのこともね」
含みがある。
「……私、今、深海さんとお付き合いしています」
「あら、そう」
アルファさんの表情はサングラスに隠れて見えなかった。
今日もアルファさんの服装は黒いミニスカと黄色い原色のカットソー、シースルーの上着。
派手だ。
ただのブラックスーツの私とは大違い。
「深海くんねえ、あんなに大人ですみたいな顔してけっこう激しいでしょ?」
「…………そう、ですね」
受け答えを、どうするか。私は迷いながら、彼女に向かい合う。
「大丈夫? 体もつ?」
「ええ……あなたに心配してもらう必要はありません」
「ふふふ」
赤井アルファは口の端を釣り上げた。
強そうな笑顔だった。獲物を前にした肉食獣。そんな感じ。
「まあ、あなたなら大丈夫でしょ、深海くんも。私は……あの子と一緒にいるにはちょっと自由すぎたって言うか……束縛強いもの、彼」
「今の旦那さんは束縛が強くないから元カレにも会いに来るんですか?」
我ながら、ひどい言葉だ。あまりにも攻撃的だ。自分で自分に引く。
「うん」
アルファさんはさらりと答えた。私の発言など意にも介していない。
「私の旦那、多分、私が浮気しても気にしないわよ……深海くんとでもね」
「そうですか。深海さんに相手にされたら良いですね」
言った。言ってしまった。
だけどまだだ、もっと言わなくては。
今までのは女として言いたかったことだ。
これからのことはトライアングルアルファのマネージャーとして言わなければいけないことだ。
「……トライアングルアルファに会いに来るの、やめてもらえます? せめてアポを取ってください。あの子たちがあなたがいなくなってどう思ったか……私には分かりません。でも、エイジくんとシュンくんがあなたのこと赤井さんって呼んでいる。それだけで……少し分かります」
赤井アルファの旧姓は三角だ。彼らは赤井アルファが事務所にいたときはアルファさんと呼んでいただろう。
それなのに今は赤井さんとかたくなに呼んでいる。
呼び慣れないだろうに、赤井さんだ。
「……分かったわ」
アルファさんの表情は、相変わらず読めない。
それでもその声には少しばかりの慎みのようなものが感じられた。
「じゃあ、機会があったら正式にアポを送るわ。バイバイ、由香ちゃん」
「さようなら、アルファさん」
「……深海くんにヨロシク」
「嫌です」
「あはは、良い子ね、由香ちゃん」
アルファさんは嬉しそうに笑って、去って行った。
「はあ……」
息を吐いて、控え室の畳にしゃがみ込む。
「……収録」
多分控え室には帰ってこずに直接スタジオに行くだろう。
そして私にテレビ局の土地勘はない。
おとなしく控え室のテレビを付けて、生放送の時間を待った。
シュンくんは生放送もそつなくこなした。
というか母屋さんと棟方さんが中心で、シュンくんは最後にCDを宣伝する役回りだった。
母屋さん、棟方さん、シュンくんがCDを手に持って、生放送は終わった。
「『刑事藤野の初恋』、来週月曜21時から! よろしくお願いします!」
そんな言葉とともにCMに移った。
「ふー……」
ため息をついていると深海さんとシュンくんが戻ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいまです」
シュンくんはすでに鑑識の上着を脱ぎ、その下のシャツに手をかけていた。
私はお約束のように目をそらす。
深海さんが何か言いたげな顔をしたけど、私は視線でそれを制した。
アルファさんのことは、シュンくんの前では話したくなかった。
そんなことより事務所に帰ったら新曲の打ち合わせだ。
私はそれが楽しみだった。
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