幼馴染みが婚約者になった
31話 嫌な予感
着地の衝撃と共に大地が大きくヒビ割れる。空中でも確認はしたけれど、一応周囲を見回して人的被害を出してないかの確認をしておくことにした。
「……人影なし」
ホッと息をつく。途中まで馬を飛ばせるだけ飛ばして、その間に地図を確認。ある程度目的のダンジョンに近づいたら力を使って飛翔。移動時間を一気に短縮した。
(疲労は皆無というわけにはいかないけど、無視できるレベルだし。このまま休まずティナ達の所まで行く)
逸る気持ち。しかしーー
「弟君、気持ちは分かるけど、少し焦りすぎよ」
俺の影からアリアさんの部下と共に、ルル姉さんが現れる。心配そうに俺を見つめるルル姉さんはともかくとして、アリアさんの部下二人は見るからに疲労困憊といった様子だ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。これしき……ハァハァ……な、何の問題もございません」
空間魔術は様々な条件で難易度が変わるという話がある。それと関係あるのか、今の所俺の影に入っても特に影響がないのはアリアさんだけで、他の人が入ると異常に体力を消費する。
(相性的なものなのか、それとも実力の問題なのかな? そういえばアリアさんとも一応子供が作れるんだっけ? ならやっぱり相性の問題……って、今はそんなことどうでもいいよね)
「二人はここで待機して、師匠やアリアさんが来るのを待っててください」
「……畏まりました」
少し不満そうではあるけれど、そこは聖暗部の精鋭。自分の力量をキチンと把握しているようで反論はなかった。
「ねぇ、弟君。気づいている?」
「え? 何が?」
ルル姉さんは鋭い視線をダンジョンの入口へと向けていた。
「これだけ危険なダンジョン。入口に誰も立っていないのというのは、少し奇妙じゃないかしら」
「そういえば……そうだね」
精鋭をつれた王女が行方不明となるほど危険なダンジョンなのだ。普通は周囲を封鎖して、ダンジョンから這い出てきた魔物討伐の為に兵を配置しておくものだろう。
「……『陽炎』」
ポツリと呟いた姉さんの前に、小さな炎が生まれる。炎は次第に大きく成長していき、やがてもう一人の姉さんへと変化した。
「行きなさい」
炎とは思えない炎の姉さんがダンジョンの入口へと歩いていく。炎姉さんは本当に生きている人間のようにダンジョンの入り口を警戒するように覗き込んーーバクリ!
「え?」
ダンジョンの入口、それが作る闇から飛び出してきた魔物の牙によって、炎姉さんの上半身が損失した。
「ルル姉さん、これは……」
闇の中に幾つもの瞳と牙が浮かび上がる。血のような瞳が訴えている。
来ないのか? お前達はこっちにこないのか?
吊り上がった口元が嗤ってる。
喰ってやる。お前達も喰ってやる。
その悪意。その兵力。竜に近い脅威を感じて身構える。
「貴方達ここで待つのはやめて、今すぐ本国に連絡を。アルバ家の名において当確ダンジョンを危険度SSに指定。今すぐ本国に対応を要請しなさい」
「「承知」」
聖暗部の二人はすぐに影へと潜っていったが、俺はルル姉さんの判断をすぐには理解できなかった。
(危険度SS。即応しなければ周辺諸国が壊滅する可能性)
その危険性ゆえにSSが発令すればどの国もそのダンジョンの対処にあらゆる資源を投入せざるを得ない。それは聖王国でも例外ではなく、姉さんの要請が通った時点で、多くの人や金が動くことになる。故にSS要請を悪戯で行おうものなら最悪処刑される可能性もあり、通常は一人ではなく連名で行うものだし、それだって一度は調査団を投入するのが普通だ。
(いきなりそんな要請出して大丈夫なの!?)
そんなことをこの場で考えてしまうのは、俺がまだ若造でしかないからなのか。次の瞬間、まるでこちらがしようとすることを理解しているかのように、闇が噴き出した。
「翼を広げて焼き払いなさい」
姉さんが身につけている指輪が発光して、ルル姉さんの人造精霊である炎の鳥が姿を現す。火の鳥は燃える翼を持って魔獣の群れをかき分けるがーー
(なんて数だ)
ダンジョンから吹き出した魔獣の数は百や二百どころではなく、多すぎるそれはまるで闇の津波のようで、全てを燃やすはずの不死鳥が逆に闇の海へと飲まれて消える。
「姉さん、下がって!」
聖王の力を解き放つ。視界を埋め尽くそうとしていた魔獣が聖なる光の下、一瞬で消滅していく。このままいけば魔獣は問題なく壊滅させられるだろう。だが、俺は目の前の光景に焦燥感に背筋をチリチリと焼かれるような嫌な感覚を覚えた。
(このダンジョンの中にティナとサーラが……い、いや、二人なら大丈夫だ)
これ程の魔物を生み出すダンジョンならばその中は深く、そして広大で間違いない。出口に魔物が殺到しているからといって、ダンジョン内に人が生存できるスペースがないわけじゃないんだ。
「くそ、邪魔だ!」
より多くの力を放出して魔物を殲滅する時間を早める。ややあって、俺達以外誰も動く者はいなくなった。
「弟君、力の使いすぎは危険よ」
「分かってる。分かってるよ」
俺は少しだけ気怠い体に喝を入れてダンジョンの中へと飛び込んだ。
「ティナ! サーラ! どこにいるんだ!? ティナ!? サーラ!?」
一階にいた魔獣はあれで全部だったのか、ダンジョンの闇は波のない湖面ように静かで、この中からたった二人を探し出すと言う作業にめまいを覚えた。
「落ち着いて。あの二人が何処にいるのか分からない以上、しらみつぶしに探して行くしかないのよ」
「……俺はもっと下から探すから姉さんは上からお願い」
「え? 弟君」
「出ろ、光の騎士。姉さんを守れ」
俺は三体持つ(一体破壊されているから残り二体だけど)人造精霊の内、全身甲冑の騎士を召喚して姉さんの護衛につけた。
「それじゃあ行ってくる。上階は任せたよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。まさかーー」
聖王の力を使って足元の床を打ち抜く。そして人が通るには十分すぎる穴へと飛び込むんだ。
「もう! お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
何年かぶりに聞いたルル姉さんのヒステリックな叫びを残して、俺は最短ルートでダンジョンを降っていく。そしてーー
「……人影なし」
ホッと息をつく。途中まで馬を飛ばせるだけ飛ばして、その間に地図を確認。ある程度目的のダンジョンに近づいたら力を使って飛翔。移動時間を一気に短縮した。
(疲労は皆無というわけにはいかないけど、無視できるレベルだし。このまま休まずティナ達の所まで行く)
逸る気持ち。しかしーー
「弟君、気持ちは分かるけど、少し焦りすぎよ」
俺の影からアリアさんの部下と共に、ルル姉さんが現れる。心配そうに俺を見つめるルル姉さんはともかくとして、アリアさんの部下二人は見るからに疲労困憊といった様子だ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。これしき……ハァハァ……な、何の問題もございません」
空間魔術は様々な条件で難易度が変わるという話がある。それと関係あるのか、今の所俺の影に入っても特に影響がないのはアリアさんだけで、他の人が入ると異常に体力を消費する。
(相性的なものなのか、それとも実力の問題なのかな? そういえばアリアさんとも一応子供が作れるんだっけ? ならやっぱり相性の問題……って、今はそんなことどうでもいいよね)
「二人はここで待機して、師匠やアリアさんが来るのを待っててください」
「……畏まりました」
少し不満そうではあるけれど、そこは聖暗部の精鋭。自分の力量をキチンと把握しているようで反論はなかった。
「ねぇ、弟君。気づいている?」
「え? 何が?」
ルル姉さんは鋭い視線をダンジョンの入口へと向けていた。
「これだけ危険なダンジョン。入口に誰も立っていないのというのは、少し奇妙じゃないかしら」
「そういえば……そうだね」
精鋭をつれた王女が行方不明となるほど危険なダンジョンなのだ。普通は周囲を封鎖して、ダンジョンから這い出てきた魔物討伐の為に兵を配置しておくものだろう。
「……『陽炎』」
ポツリと呟いた姉さんの前に、小さな炎が生まれる。炎は次第に大きく成長していき、やがてもう一人の姉さんへと変化した。
「行きなさい」
炎とは思えない炎の姉さんがダンジョンの入口へと歩いていく。炎姉さんは本当に生きている人間のようにダンジョンの入り口を警戒するように覗き込んーーバクリ!
「え?」
ダンジョンの入口、それが作る闇から飛び出してきた魔物の牙によって、炎姉さんの上半身が損失した。
「ルル姉さん、これは……」
闇の中に幾つもの瞳と牙が浮かび上がる。血のような瞳が訴えている。
来ないのか? お前達はこっちにこないのか?
吊り上がった口元が嗤ってる。
喰ってやる。お前達も喰ってやる。
その悪意。その兵力。竜に近い脅威を感じて身構える。
「貴方達ここで待つのはやめて、今すぐ本国に連絡を。アルバ家の名において当確ダンジョンを危険度SSに指定。今すぐ本国に対応を要請しなさい」
「「承知」」
聖暗部の二人はすぐに影へと潜っていったが、俺はルル姉さんの判断をすぐには理解できなかった。
(危険度SS。即応しなければ周辺諸国が壊滅する可能性)
その危険性ゆえにSSが発令すればどの国もそのダンジョンの対処にあらゆる資源を投入せざるを得ない。それは聖王国でも例外ではなく、姉さんの要請が通った時点で、多くの人や金が動くことになる。故にSS要請を悪戯で行おうものなら最悪処刑される可能性もあり、通常は一人ではなく連名で行うものだし、それだって一度は調査団を投入するのが普通だ。
(いきなりそんな要請出して大丈夫なの!?)
そんなことをこの場で考えてしまうのは、俺がまだ若造でしかないからなのか。次の瞬間、まるでこちらがしようとすることを理解しているかのように、闇が噴き出した。
「翼を広げて焼き払いなさい」
姉さんが身につけている指輪が発光して、ルル姉さんの人造精霊である炎の鳥が姿を現す。火の鳥は燃える翼を持って魔獣の群れをかき分けるがーー
(なんて数だ)
ダンジョンから吹き出した魔獣の数は百や二百どころではなく、多すぎるそれはまるで闇の津波のようで、全てを燃やすはずの不死鳥が逆に闇の海へと飲まれて消える。
「姉さん、下がって!」
聖王の力を解き放つ。視界を埋め尽くそうとしていた魔獣が聖なる光の下、一瞬で消滅していく。このままいけば魔獣は問題なく壊滅させられるだろう。だが、俺は目の前の光景に焦燥感に背筋をチリチリと焼かれるような嫌な感覚を覚えた。
(このダンジョンの中にティナとサーラが……い、いや、二人なら大丈夫だ)
これ程の魔物を生み出すダンジョンならばその中は深く、そして広大で間違いない。出口に魔物が殺到しているからといって、ダンジョン内に人が生存できるスペースがないわけじゃないんだ。
「くそ、邪魔だ!」
より多くの力を放出して魔物を殲滅する時間を早める。ややあって、俺達以外誰も動く者はいなくなった。
「弟君、力の使いすぎは危険よ」
「分かってる。分かってるよ」
俺は少しだけ気怠い体に喝を入れてダンジョンの中へと飛び込んだ。
「ティナ! サーラ! どこにいるんだ!? ティナ!? サーラ!?」
一階にいた魔獣はあれで全部だったのか、ダンジョンの闇は波のない湖面ように静かで、この中からたった二人を探し出すと言う作業にめまいを覚えた。
「落ち着いて。あの二人が何処にいるのか分からない以上、しらみつぶしに探して行くしかないのよ」
「……俺はもっと下から探すから姉さんは上からお願い」
「え? 弟君」
「出ろ、光の騎士。姉さんを守れ」
俺は三体持つ(一体破壊されているから残り二体だけど)人造精霊の内、全身甲冑の騎士を召喚して姉さんの護衛につけた。
「それじゃあ行ってくる。上階は任せたよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。まさかーー」
聖王の力を使って足元の床を打ち抜く。そして人が通るには十分すぎる穴へと飛び込むんだ。
「もう! お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
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