番外編:美術室の幸村さん「とある教師目線」

紡灯時園

中間テスト

中間テストでは、課題を提出してもらう。
ちゃんと勉強したとわかる課題ノートには、ちゃんと評価をつける。
逆に、ちゃんとしていない課題ノートの場合、ちゃんと指導する。
「もうお前たちは高校生なんだから、こういうことちゃんとやらないと駄目だろ?」と
教論として最初のうちに指導するのだ。
そのためにわざわざ昼休みに呼び出す。

今回、高校一年生の初めての中間テストで呼び出された者は6名。

その中に幸村も入っていた。
ノートにイラストが描いてあったのだ。しかもご丁寧にメッセージも添えられている。 
【息抜きって大切だ〜。】

「…」
イラストを残しておく言い訳のつもりだろうか?実際俺も今は疲れていて、その言葉に一瞬目を奪われたが…。

書かれた答えだって、ちゃんと解いたと思える筆跡がない。
これはちゃんと言ってやらねばな。

そう思ったのが、テストの採点をする前だ。
提出された課題ノートに呼び出しの付箋を貼る。

課題ノートのチェックをしたあと、長い長いテストの丸つけの時間だ。
どれほどできたやつがいるかな?
幸村も真面目に課題をやったようには見えなかったはずだった。
しかし予想外にも、幸村の点数は良かったのだ。
87点。
あの適当に書かれたようなノートでちゃんと勉強していたのか?

少しありえないと思ったが、イラストの件についてはちゃんと話そうと思う…。



呼び出された生徒は緊張した雰囲気だった。

俺は何故呼び出したかを落ち着いて話す。

高校生になったら、評価がどれほど大切になってくるのか。
途中までしか解かれてない課題の提出はありえない。
ちゃんと解いたということが分からないノートは評価を少ししかあげられない、などなど…。


話している途中。幸村は首を少し傾げていた。
今俺が言ったことをまあまあクリアしていること、イラストについて触れていないことについての疑問だろう。

ノートを見てはこちらの話をちゃんと聞こうと顔を上げる。何度か目が合うが、すぐにそらされてしまう。

何を思っているんだ?



解散と伝えたあと、俺を呼び止めた生徒がいた。幸村だ。

「…先生、イラストを描いたこと以外で欠点ってどこですか?私ちょっとわからなくて。」

いつも遠くからみていた、人と話すときの微笑みが今日は近い。そういえばちゃんと話したのは初めてだったかもしれない。

「…そうだな、特に欠点が多いわけじゃないけど。上げるとするなら、お前ホントにこれちゃんと解いたのか?」

笑いながら問いかけてみる。

「解きましたよぉ!珍しく全部。」

やはりちゃんと解いたのか。
そして意外とノリが良かったので、こちらも楽しくなる。

「そうか。でもお前、このイラストなんだ?あとこのメッセージみたいの、何?俺に対してのメッセージなの?(笑)」

冗談交じりにそう聞いてみる。
「いや、これはちょっと言い訳させて下さい。気分転換に描いたんです。そしたら思ってたよりイイイラストになって…。」

「それならスマホとかで写真撮ればいいだろ?わざわざ課題ノートに書かんでもいいじゃん。」

「…そうですね、次からはそうしますよ。ちゃんと。」

しぶしぶと納得したようだ。

「これ見せたら部活の先輩に笑われましたよ。なんで点数良いのに呼び出し食らってんの?って。」

ホントにそのとおりだ。

そのうち笑い合っていると、予鈴がなった。

「じゃあな、テストはホントに良かったぞ」

と一言が置いて帰る。
幸村もニコニコとしながら帰って行った。


また話したいな。
なぜか自然とそう思った。
久しぶりに誰かと話していて楽しいと思ったのだった。




ーーーーーーーー
幸村の心の中

顔はイケメン声も素敵。
授業もわかりやすい、スーパー先生完璧だ…!


中学時代は真面目に授業も聞かず絵を描いていたが、高校からはちゃんと授業を聞こうと思った。自分が本来どのくらい勉強ができるのか試したかったからだ。


テストを返され、提出した課題ノートも返って来た。
しかし…
「このノートを持って、明日の昼休みに槻島まで来なさい。」
 
と書かれた付箋が貼ってあったのだ。
その文字からは怒りのようなものが伝わる…。

え、呼び出しじゃん。
こわっ。

え、やっぱりイラストが悪かったのかな、そうだよね…!?そうなんだよな!?
なんで消さなかったのよ過去の私よー!
あえて消さなかったのは事実だが。。。


その日の部活時間…
先輩にこのことを伝えると、
「なんで点数良いのに呼び出しされてんのwww」
と笑われた。
「たぶんイラスト描いてたからですかね…?」
「あー、イラストはだめだわ。槻島先生怒るわそれはw。」

やはりか…。
「槻島先生はマジで舐めないほうがいい。怒るともうブチ怖いから…!」

怒られる前にそれを言わないでくれ…!
唇をかみ、逃げ出したい気持ちを抑える。

次の日。昼休みが近づくにつれ恐怖は増すばかり。怒られたくない。
しかし、呼び出されたのは私だけではなかったらしい。
今年初めて出会った同じクラスの子に、呼び出された件を言ってみると、
「え、彩雲ちゃんも?私もだったんだよね!」
と、仲間を見つけたのであった。
一緒に行けば怖くない、ということで一緒に行く。


職員室にいる槻島先生に同じく呼び出された男の子が声をかける。
「…場所移動するから付いてこい。」
槻島先生は授業のときとは打って変わって、いつもよりも低い声だった。
より緊張感が増す。

呼び出されたのは多目的教室。

いったいどんなことを言われるのか。

ドギマギしていたが、案外普通のことを言っていた。
しかも、なんだか今先生が言っていることは、わたし的にはクリアしているはずだけどな…。イラストについては何も触れないし。

そして何より気になるのが、
なんでこっちチラチラみるの?
めっちゃ目合うやん。
しかもその時の表情が少し戸惑いというか、こちらの気持ちの様子を伺っているように見えた。

わたし変な表情してるかな?

意外と怒られるというより、注意されるようなくらいで、怖くはなかった。あの恐怖の時間を返せ。


解散、と言われたあと、皆すぐに帰ろうとしていたが、私は気になることがある。
このノートのどこかいけなかったのかをだ。
(イラスト以外で…。)


普段私は人と話さないが、話すときはちゃんと話すようにしている。

先生は案外にこやかに話していて、特にイラストについてもすごく注意することはなかった。
「課題ノート」に描いて取っておく必要はないよな、せめて他の紙に描け。
と笑いながら言われたぐらいだ。

話していると予鈴がなって、先生は去り際に
「テストの点数はホントに良かったぞ。」
と笑顔で帰って行った。

あんなによく笑う人なんだな…。
笑いながら話す姿も素敵だと思った。
きっとイケメンだからだ。恋の感情ではない。これはきっと「推し」というのだろう。


槻島先生、推し確定!


これから推しに会うたび嬉しくなる幸村であった。

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