番外編:美術室の幸村さん「とある教師目線」

紡灯時園

保健室の幸村さん

この日俺はたまたま養護教諭に用事があり、保健室に訪れた。
コンコン、と扉をノックする。
いつもなら「はーいどうぞー」と声がきこえるはずだが、今日は返事が無い。

いない、ということはないはずだが…。
「失礼します。」
そう思いながら一言ことわり、扉を開ける。
ひらけた白い部屋には誰もいない。
しかし話し声がきこえる。奥の相談室からだ。 
こちらも授業などがあるので、できるだけ早く済ませたい。
失礼を承知してドアに近づくと、がちゃ、と先にドアが開かれた。
「ああ、槻島先生。どうされましたか?」
中から養護教諭が微笑みながら出てきた。

そして開かれた扉の奥には、
幸村がいた。

トクン、となぜか心蔵が跳ね上がる。
彼女はこちらの様子を伺っていた。いつも無表情の彼女だが、今日は少し青白い顔をしていて、具合が悪いことが見て取れる。

今来るのは辞めたほうが良かっただろうか。
しかしこちらも忙しいことに変わりはないので、手早く話を終わらせることにした。

「すみません、ちょっとうちのクラスの寮生の子の体調について少しだけ話があるんですけど…、今大丈夫ですかね?」
「ああ、なるほどわかりました。」
養護教諭はそう言い、ちょっと待っててね、と幸村に伝え、扉を締める。

具合が悪いだろうに、力なく微笑みながらちゃんと受け答えている様子を見て、少し申し訳なさがでてくる。

手早く終わらせよう。

一通り話して、俺は早くにここを去る。
最後にはありがとうございます、と礼をおいて保健室を出ていく。

話し声は幸村のところまで聞こえていたのだろうか。聞こえていようがいまいがどうでもいいはずなのに、そんなことを考えてしまう。

こんなに考えてしまうのは、あいつが不思議なやつだからだ。
いつもすごく静かな割に普通に喋るし、普段仏頂面な割にふわりとした笑いが少し可愛らしい。
いつも笑っていればいいのにな。
そういえば相談室にいたが、なにか悩みがあるのだろうか?

そんなことばかり考えていた自分にハッとし、我にかえる。
いかんいかん、こんなことばかり考えていてはダメだ。

このあと職員室に帰ってからコーヒーをガブ飲みするのであった。

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ちょっぴり幸村目線
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幸村の心の声。

え、槻島先生という名の推しが来たんだけど…!!
え、体調悪いし精神的不安定だけどめっちゃ嬉しいんだけど!!

まって、扉閉めちゃうの?おーけー。幸村は優しいってアピールするために、the微笑み。
ふっ、決まったぜ。

そして、かすかに聞こえてくる会話にそば耳を立てていた幸村。
早くに話を切り上げようとしている様子に対し。

え、まって、もしかして私に話聞かれるの嫌なのかな…!?
わたしがいると思うと嫌なのかな!!ねぇ!
いかないで!大丈夫か?って言って!そしたらもうめっちゃ元気だから!!!
幸村めっちゃ元気になるから!!!

とにかく話したくて必死な幸村さんの心の中であった。


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