消えない思い

樹木緑

第146話 部室でまったり

「赤城君、おはよう!」

奥野さんとまた下駄箱で一緒になった。

「あ、奥野さん、おはようございます!」

「ゴールデンウィークはどうだった?
バイトではシフト一緒になれなかったもんね。
佐々木先輩と何か楽しいことした?」

「はい、一緒に旅行しました!
凄く楽しかったです。
奥野さんは青木君と何かしたんですか?」

「それがさ、猛のヤツ、
部活動、部活動で 私の事はほったらかし!
でも、お弁当作って見学には行ったんだよね!」

「奥野さんこそ、何だかんだ言っては
旨くいってるじゃないですか!」

「テヘッ! そうなんだよね!」

そう言って彼女はペロッと舌を出した。

「そう言えばもう直ぐ体育祭だね~
1年経つの早いよね!
去年の体育祭は櫛田君にしろ、
赤城君のお父さんにしろ強烈だったしね~
それに体育祭終ったらインハイ予選だし……」

「青木君、スタメンに選ばれたんですよね?
凄いですね」

「あら、知ってたの?」

「はい、佐々木先輩から聞きました!」

「どう? 佐々木先輩とはうまく行ってるの?」

「はい! 今の所は!」

「良かった!
矢野先輩が留学した時は一時はどうなるかと思ったけど、
最近は凄く元気そうで楽しそうだね!」

「エへへ」

僕達はこうして校内で会うと、
他愛ない会話をして別れることが
日課となっていた。

新学期が始まって、
奥野さんも新しいクラスで忙しそうで、
僕も新しい友達が出来たりして、
出だしは先ず先ずと言う処だった。

去年は青木君の陰謀?で体育祭の応団幕つくりのリーダーに
されてしまったけど、今年は逃れることが出来た。
美術部のアーチ作りがあるので、
それはそれで助かった。

その日も学校が終わると、
部員とアーチのデザインを決めるために部室に立ち寄った。

去年は部室で作業をしたのは僕と矢野先輩だったけど、
他の部員も持ち帰り作業で参加してくれた。

今年も恐らく同じような物だろう。
話し合いの結果、数店のデザインが出た。
この後、部員の多数決による結果で、
どのデザインを使うかが決まる。
それは部長がラインで皆に送り、
返事が来るという仕組みになった。
期限は1週間後。

大体の事を話し終わった後は、
僕を残して皆はそれぞれに散って行った。

僕は、帰っても両親も仕事でいないし、
もう少し学校に残って、
描きかけの絵を描こうと思ってキャンバスの準備をした。

丁度そこに、マイピロウを抱えた佐々木先輩が現れた。

「よう! 一人か?」

「あ、佐々木先輩!
今日も後輩しごきですか?
体育祭の後はインハイ予選が待ってますもんね!」

「ハハハ、まあな、
とりあえず、俺がやれることはやってしまったんで
お前いるか覗きに来たんだが、やっぱり居たな」

「あ、そのピロウ、
使ってくれてるんですね!」

「せっかくもらったしな。
活躍してもらわないと!」

「へへへ、僕、嬉しです」

「じゃあ、ちょっと汗かいたシャツを着替えるから、
お前、あっち向いてろ!」

「……」

「先輩、それ、ジョークですか?
先輩の体、全部知ってます……」

「ハハハ、お前のマネをしたまでさ~」

そう言って先輩はさっさとTシャツを脱ぎ始めた。

相変わらずの奇麗な背中のラインとしなやかな筋肉に僕の心臓は少し高鳴った。
先輩の動く指を目で追うと、先輩の奇麗な長い指がイヤに舐めまかしく感じた。

あの指で僕は……

そう思うと、動悸のように心臓がバクバクし始めた。

煩悩退散! 煩悩退散!

と思いながら、先輩を横目でチラ見した。

「先輩の体って、衰えていませんよね?
何か運動してるんですか?」

「なんだ?
触りたいのか?
触っても良いぞ」

図星を差されたように先輩がからかって言ったので、
僕は真っ赤になってイ~と舌を出した。

「ハハハ、要は怒った顔も可愛いな。

まあ、冗談はさておき、
今でも体つくりにジョギングはするけど、
それだけだと筋肉落ちるからな~

こうやって後輩達しごきに来るだけだと
どうしても運動には足りないんだよな。

何かしなくちゃとは思ってるんだが、
中々時間が……」

そう言って先輩はシャツを着替えると、
ピロウを窓下に持っていき、
そこに無造作に置くと、
ゴロンと転がった。

「先輩、床だと背中痛くないですか?」

「イヤ、運動する訳じゃないからそうまでも無いよ。
お前も転がってみるか?
このピロウ、割と気持ち良いぞ」

「え~ でも居誰か来たら……」

「誰か来たら、お前、寝転がってなくても、
俺がここにいると言う時点でアウトだろ?」

「あ、そうですね、
何か言い訳を考えていた方が良いですかね?」

「そうだな、まだここには優香の息のかかったやつもいるしな……
俺が在校生の時はお前との噂もしょっちゅう出たし、
どんな言い訳をしても皆やっぱりとは思うだろうがな……」

そう言いながら先輩は瞼を閉じた。

僕は絵を塗りながら、

「大学はどうですか?」

と尋ねた。

「ああ、毎日新し事ばかりで楽しいよ?
親父はアレだけど、手伝う事には有意義があるし、
凄く充実してると思う。

要にもこうして会えるし、
スケベな事も出来るしな!」

「先輩!」

と僕が大声を出すと、先輩はハハハと笑って、
静になった。

“大学に、先輩のお父さんのお手伝いに、
後輩の面倒に、僕の相手……

凄く疲れてるんだろうな……”

僕は塗りかけの絵を方付けると、
持ってきていた小説をカバンから取り出し、
先輩を起こさない様にそっと隣に腰かけた。

“あ、やっぱりクッション無いと、お尻痛いや。
先輩疲れてるのに、こんなゴワゴワの床で寝て、
疲れとれるのかな?”

そう思いながら読みかけのページを開くと、
先輩が僕の腰に抱き着いてきた。

「あ、先輩、僕、起こしましたか?」

「イヤ、良い匂いがしたから隣に来たのが直ぐに分かった」

そう言って先輩は僕の腰に顔を埋めると、
大きく息を吸った。

「は~ 要の匂い、癒されるわ~」

「先輩、疲れてるんでしょう?
眠ってても良いですよ。
何時に起こしましょうか?」

「悪いな、1時間経ったら起こしてくれ。
家まで送るよ」

「了解です!」

そう言って先輩はまた眠りに落ちた。

古くなった窓を見上げると、
カーテンがわずかに揺れて、
爽やかな風が入り込んだ。

僕に抱きついたまま眠ってしまった先輩の髪を少し揺らすと、
フワッと僕の大好きな香りが漂った。

「あ、先輩のフェロモンだ……」

僕たちはお互いのフェロモンを嗅ぎ分けることができる。
他の人には分からない微量なものらしいけど、
これがやはり運命とそうで無い者の違いなんだろうか。。。

僕は先輩の髪をそっと梳きながら、先輩の頭にキスをした。
そして先輩がそこにいる幸せをかみしめた。

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