消えない思い

樹木緑

第144話 ベネツィア祭2

自分たちの詳細こそ言わなかったけど、
彼女達とはとても仲良くなった。
そして共用できる情報だけ教え合った。

彼女たちは3人共幼馴染で、
皆αの親から生まれたと言う事。
そしてα社会を唱える両親に育てられた事。
そんな両親に反発してる事。

そして、Ωの彼女は、
αの両親から疎んじられ、
α社会に馴染めず、
辛うじて幼馴染の彼女らが
守っていると言う事だった。

それに彼女らも、
未来の日本を、Ωが住みやすいように変えたいと
画策しているところらしかった。

皆大学生で、大学では
政治や法律、福祉などについて
それぞれに学んでいると言っていた。

だから僕も正直に先輩は大学生だけど、
自分は今高校生で、
先輩とは高校で運命の番として出会い、
将来を約束した仲だと言う事を伝えた。

そして僕達も、Ωにとって、
住みやすい国となるよう目標を持ってる事を伝えた。
僕達はそう言う面で、凄く意気投合した。

「じゃあ、俺はまた色々と話をしてくるので、
お前はまだ食べるのか?」

「うん、僕こんなおいしいスイーツ滅多に食べれないから、
もう少し堪能するよ」

そう答えると、先輩はまた人ごみを分けて向こうへ行ってしまった。

「優しそうな人だね。
でもあなた、コルセット苦しく無いの?」

「う~ん、もうかなり来てるけど、
あと1,2個くらいだったらいけるかなぁ~と……」

彼女たちはクスクスと笑いながら、

「あなたって食べても太らない体質?
男の子って良いわね。
私たち、食べたら、食べただけ太っちゃう!」

と、羨ましそうに僕の頬張るスイーツを見ていた。

「でも高校生で運命の番が見つかってるって羨ましいわ~
もう都市伝説化してるのに良く見つかったわね」

そうΩの彼女が言った。

「あなたも運命の番に憧れてるの?」

僕がそう尋ねると、Ωの彼女は、

「やっぱりΩだったら誰もが一度は夢に見るんじゃないの?
残念だったけど、私の幼馴染の二人は私の運命では無かったわね!
大好きなのに変わりはないんだけど!」

と残念そうに言った。

そう言われて、僕は不意に矢野先輩の事を思い出した。

「そう言えば僕の先輩にαの先輩がもう一人いて、
あ、僕の恋人の幼馴染なんですけど、
彼も死ぬ思いで運命探してましたね~
僕は何時も2番目だ~って言いながら……」

「あら~ αで番探しする人って珍しいわね」

そうαの人が尋ねた。

「やっぱりαってαと一緒になる事を希望してる人多いんですか?」

「う~ん一概にとは言わないけど、
そう言う人は多いと言うか、家庭のプレッシャーが大きいと思う。
実際私達の家族もそうだし……

それに都市伝説化されてる運命を苦労して親に逆らってまで
探しに行く人っていないでしょう?
でも、本当に運命の番って居たんだね……
私、その部分に関しては考え方を改めなくちゃ!

でもあなたのもう一人の先輩の運命が
私の幼馴染の彼女って言う可能性もあるんだよね~

今はどちらに?
ここには来てないの?」

「先輩は今海外です。
留学しちゃいましたね~
もしかしたら、自分の運命は海外に居るかもしれないって!」

「まあ、パワフルな方ね」

そう言って彼女は笑った。

矢野先輩が去って、先輩の事をこんな風に
明るく、素直に話せたのは初めての事かもしれない。

それが僕に取っては凄く嬉しかった。

「あ、ほら、ダンスが始まるみたいよ。
他の殿方に誘われる前に恋人の所に行った方が良いわよ。
多分、彼にもダンスの申し込みが殺到するわよ」

そう言われたかと思うと、ダンスの音楽が流れ始めた。

僕が先輩を探してホールをウロウロとしていると、
一人、また一人と男性達から声を掛けられた。
最初は恋人を探していると言って断っていたけど、
見つからない佐々木先輩をよそに、
同じ人がまた声を掛けて来た。

「まだ恋人見つからないの?」

僕は立ち止まって彼の方を見た。

彼は先輩の様に背は高くは無かったけど、
割と中世ヨーロッパの服装が似合う人だった。

割と堀も深めで、

“ん? 外国人? ハーフ?”

と思っていると、

「恋人がやって来るまででいいから
踊りませんか?」

と再度尋ねられた。

僕は周りを見回したけど、
一向に佐々木先輩の姿は見受けられなかったので、
結局は断り切れずに彼の手を取ることにした。

体育祭でのフォークダンスしか踊ったことの無い僕は
どう踊ればいいか分からなかったけど、
彼のリードはとてもうまく、
僕はスムーズに踊ることが出来た。

「上手だよ、
君、踊りは初めて?」

「はい、学校の体育祭でフォークダンスは
踊ったことがあるんですが……
それだけで……」

「ハハハ、フォークダンスか、
いや、最高だよ。
君、上手いよ。
ほら、どんどん上達してる。
踊りの才能あるのかな?」

とまあ、べた褒めしてくれる。

「あなたはここは初めて?」

「え? ベネツィア祭?」

「はい、私は初めてで、
未だに祭りの仕様に驚いているところです」

「そうなの? 中庭も割と奇麗なんだよ?
行ってみる?」

「え? 中庭があるんですか?」

「噴水なんかもあってね、バラ園もあるんだよ。
バラはまだ蕾だけど、咲始めてるのもあるんじゃないかな?」

「あ、でも恋人に黙っていったら、
きっと私の事探すから……一言くらいは何か言っておかないと……」

そう言ったけど、その人は

「少しくらい大丈夫いだよ。
現に彼も君の事ほったらかしだし!」

そう言うと、彼は少し強引に僕を中庭まで引っ張って行った。

中庭からはダンスホールが良く見え、
皆思い通りにバラバラとダンスをしていて、
とても楽しそうだった。

その時、佐々木先輩が人ごみの中を
キョロキョロとしながら横切るのが見えた。

「あ、私もう行かなきゃ……
彼が私の事探している見たい」

そう言って僕は、ドレスの裾を掴むと、

“ここで靴を片方落としたらまるでシンデレラだな”

と思いながら、
先輩がウロウロとしているホールへと走って行った。

先輩に駆け寄り腕を掴むと、

「お前、何処に行ってたんだ?
随分と探したんだぞ」

と言われ、

「いや、ある人に捕まって
今まで中庭に居たんです。
でも先輩の姿を見かけたから……」

と説明した。

「中庭? そんなのがあるのか?」

「はい、ほらあそこのドアから出るとその向こうに……」

そう言って指を差すと、先ほどの男が出口近くの壁にもたれ掛けて、
ワインのグラスを掲げながら、ジッと僕の事を見つめていた。

「もしかしてお前を連れ出したって言うのはあいつか?」

「うん……そうだけど……
あの人の事はどうでも良いじゃない。
それよりも先輩の事話して……
誰と、どんな話してたの?」

「俺か?
ここはな、凄いぞ。
色んな話題の宝庫だ。
顔が見えない分、皆、話す、話す。

汚職に、スキャンダル、投資に企業機密……
凄いぞ」

「え、先輩、そんな情報かき集めてたんですか?
こんな短時間に?」

「お前も色々と話してみたら良いぞ。
ここにいるやつらは結構ハイソな奴らだから、
色んな情報持ってるぞ!」

「え~ でも僕、聞いても何のことか分からないかも……」

「まあ、お前にはこれと言って今必要な情報は無いだろうな。
ま、せいぜい、今夜は眠れない覚悟だけは決めてくれ」

そう言って先輩は笑った。

僕も負けずに、

「ム・ム・ム
先輩こそ覚悟していてくださいよ!」

と返したら、

「ん~ 今夜が楽しみだな!」

と軽くあしらわれてしまった。

全く先輩だって僕とそんな経験値変わらないくせに!

「ほら! 折角来たんだから、情報集めよりも踊るぞ!」

先輩の掛け声と共に僕達は踊りながら人ごみの中に紛れて行った。

そしてそんな僕達を、あの男が壁の花になりながら、
ずっと僕達の事を監察していたのはその時の僕達には知る由も無かった。

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