消えない思い

樹木緑

第139話 浦上琢磨

あれから何度か、
下のコンビニのお兄さんと顔を合わせ話もした。

彼の名前は浦上琢磨といい、
地方から東京の大学へ出て来た21歳の
大学4年生だと言う事が分かった。

大学では経済を勉強しているらしく、
今年で卒業だと言っていた。
丁度、遠恋をしていたガールフレンドと別れ、
毎日を寂しく過ごしていると教えられた。

このコンビニには去年の夏位から居るらしく、
シフト時に僕が行かなかったのか、
それともただ覚えていないだけなのか、
僕の記憶から行くと、今まで会ったことが無かった。

でも、あれから佐々木先輩については
何も聞いてこなかったので
そこは安心したけれども、
何だか最近迫られているような感じがした。

その日も僕は、学校帰りにコンビニの前を通った。

「よお! 要! 今帰りか?」

彼はコンビニの前を掃除していた。

もう呼び捨て? まだ会ってそんな経って無いのに
ちょっとなれなれしくない?

そう思ったけど、

「こんにちは。 お疲れ様です」

と言って素通りをしようとした。

「おい、おい、おい!
それだけ?
もっと他に言う事無いの?」

「いえ、別に……
今、仕事中じゃないんですか?」

「何だよ、つれないな。
なあ、今週末暇?」

何で今週末の僕の予定が必要なの?

「え?」

「いや、週末に一緒に飯でもと思ったんだけど……」

「何故僕と?
一緒にご飯行くほど知り合っても居ないと思うんですけど……」

「だからだよ。
親睦を深めるために、な?」

「だから、何故僕と親睦を深めないといけないんですか?
僕は一介の高校生なんですけど……」

「ま~、ま~
そう言うなよ。
折角知り合ったんだし、
出会いは大切にしないとな? な?」

「意味わかりません!
僕は忙しいので……では」

そう言ってマンションへと入って行った。

エレベーターの前まで来ると、
フ~ッと一息ついて、胸を抑えた。

『は~ びっくりした!
いったい何なの、あの人……
ちょっと怪しいんですけど……
何故いきなり僕……?
佐々木先輩に相談する?
でも心配かけたくないしな……
仕方ない、とりあえずは様子を見て見よう……』

浦上さんの馴れ馴れしさに少し疑問は残ったけど、
そういう人も居るんだと思い、余り気には留めなかった。

2年生になってからも、僕は隔週末ごとに、
奥野さんの叔父さんのカフェでバイトをしていた。

それはバイトの入っていた週末の出来事だった。

僕が接客をしていると、カラン・カランと人の入ってくる音がした。

「いらっしゃませ~」

と言ってドアの方を向くと、入って来たのは浦上さんだった。

僕は凄くびっくりした。

え? 何故? ストーキングされてる?

僕は暫く固まって、そこを動くことが出来なかった。

「あれ? 要? ここでバイトしてたの?」

え? 僕がここでバイトしてるの知らなかった?
もしかして偶然?
全部僕の思い違い?

「あ……はい……
あの……お一人様でしょうか?」

訝し気に僕はそう尋ねた。

「うん、今日は一人。
俺、その先にある大学に行ってるんだ。
言わなかったっけ?

週日は結構ここに顔出すんだよ。
今日は教授に呼び出しされてね、
ここでお昼にしようと思って来たんだけど、
グッドタイミングだったね」

あ~ そう言えば、大学4年生って言ってたな。
その先にある大学だったのか~
ストーキングなんて、やっぱり僕の気の所為か~
そう思ってため息を付いた。

「それでは、こちらの席にどうぞ」

そう言って僕は浦上さんを
窓辺の二人座りの席へ案内した。

「ユニフォームがカッコいいね?
ここは長いの?」

「はい、もう1年くらいになります」

「結構長いんだね。
ここには割と来てるんだけど、今日初めて会ったね?
バイトしてるの週末だけ?」

「はい、隔週末で……」

「そうなんだ、じゃあ再来週末にはまたいるんだよね?」

「あ……そうですね」

「じゃあ、次は要の居る時に来るようにしようかな!」

そう言って浦上さんはウキウキとしたようにしていた。

「あの、お飲み物は?」

「じゃあ、まずはお冷で」

「分りました。
それではご注文が決まりましたら、
このボタンを押してください」

そう言って僕はお冷を取りにカウンターへと行った。

そこでは僕のやり取りを興味深く観察していた奥野さんが待っていた。

「ねえ、ねえ、あの人知り合い?」

「あ、僕の住んでるマンションの
一階にあるコンビニでバイトをしている人で
この先にある大学に通っているそうで……」

僕がそう言うとカフェオーナーの森野さんが横から、

「あ~ あちらのお客様だったら、
週日によく見かけますね~」

と言ったので、やっぱり本当だったんだと思った。

でも奥野さんが、

「でもちょっと胡散臭いわよね?
赤城君がここでバイトしてるの、本当に知らなかったの?」

とコソコソと耳打ちして来た。

「やっぱり変だと思いますか?
僕もちょっとなれなれしいかなとは思ったんですけど……」

「ねえ、赤城君に気があるんじゃない?
ここはガツンと、付き合ってる人が居るっていったら?」

そこでハッとして、

「実はですね、先日彼がバイトしている時、
ちょうどコンビニを訪れたんですよ。
その時に佐々木先輩が載った雑誌があって、
買おうと会計まで持っていったら、
佐々木先輩の事、僕の付き合ってる人だって
ピシャリと当てたんですよ。
気味悪くありませんか?」

と奥野さんに伝えた。

「確かに怪しいよね、
でも、赤城君のマンションの所のコンビニでしょ?
あのコンビニ何時も通るんだよね?」

「そうなんですよね~」

「一緒に居るところ見られたとか?
ほら、赤城君奇麗だし、
佐々木先輩も立ってるだけで何かと目立つ人じゃ無い?
二人そろえばだれもが振り向くみたいな?」

「お母さんからも、知らないうちに
会ってるんじゃないの?って言われたんですけど、
僕的には何だかそれだけでは無いような
ニュアンスが含まれてたんですよね」

「本当だね、ちょっと気持ち悪いよね。
単なる気のせいだと良いんだけどね。
佐々木先輩に相談してみたら?」

「心配かけたくないし、
もし本当に必要だったら相談してみます」

「もしなにかあったら私にも言ってね?
力になるから!」

「はい、ありがとうございます」

その時、浦上さんから注文のベルが鳴った。

僕は直ぐに浦上さんの所へ確認に行った。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ねえ、今日は何時までバイトなの?」

「……ご注文では無いんですか?」

「つれないね~
じゃあエビドリアで。
サラダとコーヒーも一緒にお願いします」

「かしこまりました」

僕はお辞儀をすると、カウンターへと行った。

「ひゃ~ 彼も負けてないね~」

そう奥野さんが言うと、僕は肩をヒョイとあげて
首をひねった。

「ほら、呼んでるよ」

そう言って奥野さんが彼の方を指差した。

浦上さんは、顎で肘をついて、
片手を僕に向けてヒラヒラとしていた。

僕はチラッと奥野さんを見ると、
奥野さんは行ってらっしゃ~いと僕の肩を押した。

僕は、ヤレヤレと思いながら、

「追加注文ですか?」

と尋ねに行った。

「ねえ、さっきの質問!
今日は何時に終わるの?」

またそれか!

「お客様に個人的な事はお答え出来ません!」

僕がそう言うと、

「じゃあ、要が終わるまで此処で待ってようかな~」

と浦上さんも負けていない。

「それは他のお客様の迷惑になりますでやめて下さい。
出禁にしてもらいますよ!」

浦上さんは降参とでも言うように、
両手を小さく上げて、

「じゃあ、今日は諦めるよ」

そう言って、奥野さんが運んでくれた
出来たばかりのご飯を、

「今日も美味しそ~
頂きま~す」

と言って食べ始めた。

奥の方で暫く奥野さんに
グチグチと文句を言っていると、

「じゃあ、お会計お願いしま~す」

と、今日の所は素直に帰ってくれるようだった。

助かったと思い、
彼のテーブルをかたずけに行った時に、
カフェの少し先で立っている彼の姿を見た。

あれ? まだいるの? 誰かと待ち合わせかな?
と思っていたら、
彼の所に黒塗りの高級車が止まり、
運転席から黒いスーツを着た人が顔を出した。

そして浦上さんに話し掛けた。

僕はひぇ~ 
もしかしてあっちの人?
浦上さん大丈夫?と思っていると、

黒いスーツを着た人が浦上さんに車に乗るように誘った。

僕が息を殺してその行方を見守っていると、
浦上さんは、少し周りを気にしたような仕草をして、
黒塗りの車に乗り込んだ。






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