消えない思い

樹木緑

第121話 終業式

今日は終業式。
で、明日からは冬休み。

僕は今、正に佐々木先輩に
成績表の提示を求められている。

何だか僕の前に差し出された右手が恨めしい。
噛んでやろうかとさえ思える。

はっきり言って僕の成績は普通だ。
でも、一つだけ……
数学がよろしく無い。
赤点補習を避ける為、
期末前はとっても忙しい佐々木先輩に泣きついた。

だって、クリスマスの旅行を潰されては堪らないから。
辛うじて赤点補習は免れたものの、
成績表はギリギリのところで合格点をもらった。
中間の成績を考えれば、頑張った方だと思う。
そうです。
中間は補修組に入り、
危うくバイトを却下されるところだった。

そんな僕だったので、
佐々木先輩も、心配しての行動だった。

僕は渋々と成績表を先輩に差し出した。

先輩がそれを開いて見ている間、
僕はドキドキとしていた。

「まあ、お前にしては頑張ったな。
取り敢えずはお前の両親からも旅行のお許しは出るだろう」

そうなのだ。

僕が旅行に行くための両親から出された条件は、
成績表に2をもらわない事。
僕達の学校は5段階で成績を表記している。
2をもらうと言う事は、赤点補修である。
取り敢えずそれはクリアしたけど、
ギリギリだったので、
先輩のお目玉を喰らった。

「しかし、お前なっ、この俺が教えてるのに
何故こんな成績しか取れないんだ!」

先輩に耳元で怒られ、
僕は落ち込まなくてはいけないんだろうけど、
耳元で話されると、どうも興奮してしまう。
先輩の声はどんなに怒っていようが、
愛を囁いていようが、
僕にとっては媚薬の様だ。
特に耳元で話されると。

この時僕の頭はクリスマスの事でいっぱいで、
他の事には何一つ集中できなかった。

僕が先輩の怒り声にもフニャフニャとしていたので、

「お前は聞いてるのか!?」

と更に耳を引っ張られ怒られてしまった。

ぼくはそれにへへへと笑って、

「クリスマスが楽しみですね」

とかえした。

先輩は、

「まったく!」

といってはみたものの、
顔はちょっとニヤけていた。

「お前もう今月は発情期来たんだよな?」

「はい!バッチリです!
クリスマスは完全に安全日ですよ!」

と何のことやら、
気分はすかっりクリスマスに飛んでいる。

「だったら、今回は確実にゴーだな。
クリスマスまでは会えなくなるけど、
浮気するんじゃ無いぞ。

両親の言いつけを守って、
良い子にしてるんだぞ。
怒られてクリスマスを
キャンセルするなんて事になるんじゃないぞ!」

「先輩、信用無いですね~
僕は何時でも良い子なんですよ!」

そう言って舌をべ~と出した。

「浩司ももうすぐくるんだろ?
クリスマスまでの3日は長いが、
また3日後にな。
フラフラと浩二の口車に乗せられるんじゃないぞ!」

そう言われて、僕達は別れた。

「何だろう! 矢野先輩の口車って!」

そう言って僕はクスクスと一人で笑っていた。

「お待たせ〜
久しぶりに一緒に帰れるね。
何一人でニヤニヤしてるの?
今まで此処に裕也が居たの?」

と矢野先輩が入れ替わりでやってきた。

矢野先輩と一緒に帰るのは、
今学期に入って初めてだ。
その為僕は、今朝からソワソワとしていた。

「先ぱ~い! 本当に久しぶりです~
僕、先輩と今日一緒に帰れると持ったら、
昨夜は眠れなくて!
今日の放課後、凄く楽しみにしていたんですよ!」

「ハハハ、短い時間だけど、
さあどうぞ」

と言って先輩が腕を差し出した。

僕は先輩の腕を取って、歩き始めた。

「そういえばさ、僕さ、
この前パネルの前で君たちに会って
チョット話した後さ、
少し心配になって
草葉の陰から君たちの事
覗いてたんだけど、
いったいあれ、
お互いにペコペコして、
何してたの?」

僕は、矢野先輩の突然の告白に、
凄く恥ずかしくなった。

まさか緊張しすぎて2人して何話して良いか分からず、
天気の話をして、ただペコペコしてただけなんて
絶対知られたくなかった。

「いや〜 何してましたっけ?
そんな昔の事、もう覚えていませんよ〜」

「それってさ、一昨日の事なんだけど、
覚えの悪い頭はこれかー」

と、また頭をグリグリとして来た。
矢野先輩は僕の頭をグリグリするのが好きみたいだ。

もう!とか言いながら乱れた髪を直していると、

「もうクリスマスの準備は出来たの?」

と先輩が聞いて来た。

「先輩、ちょっと聞いて下さいよ〜」

僕は周りを見回し、誰も居ないことを確認して、
ボソボソと話し始めた。

「実はですね、あれから色々とネットで調べたんですよ」

そう言うと、

「ハハハ、勉強熱心だね。
で? 何か分かったの?」

と先輩は聞いて来た。

「先輩、世の人は本当にあんな事してるんですか?
って言うか、知ってはいたんですけど、
なんと言うか……
恥ずかしく無いんですかね?
みんな堂々とやっていて、僕、ちゃんと出来るか……
それに、Ωの発情期ものも見ちゃって……
僕、本当にああなるんですか?
佐々木先輩も本当にあのαみたいになるんですか?
矢野先輩もαだから矢野先輩も……
ぎゃ~ 何てハレンチな!」

そういうと、先輩はハハハと笑い出した。

「何がそんなにおかしいんですか!
僕、佐々木先輩の前で裸になるなんて考えられません!
それに先輩の裸も直視できるか……

エッチする時って……
少なからず僕、発情するんですよね?
って事は、少なからず、佐々木先輩もあのαみたいに……
イヤだ~ あんなアンアン言って~
先輩に引かれたら僕、立ち直れません!」

そう言うと、先輩は更に笑って、

「だよね~
僕と二人で旅行に行った時も、
単なるお風呂でさえ凄く恥ずかしがってたよね~
これは由々しき問題だよね~」

先輩はそう言った後、

「でも焦らなくても大丈夫だよ。
裕也だって要君の心の準備ができていなかったら、
無理強いはしないよ。
大丈夫! ちゃんとその時はちゃんと来るから!
それに、この前の裕也の態度を見ていると、
思ってる事は要君とそう変わらないと思うよ」

と助言してくれたので、
ちょっと気になってたことを聞いてみた。

「ねえ、先輩、
正直に答えて下さいね。
ちょっとプライベートな事なんですが、
僕には重要なんです。
絶対に隠さないでくださいよ!」

「何、何? なんだか怖いね」

僕は深呼吸して、

「先輩って、実はもうやっちゃったんですか?」

と、ストレートに尋ねてみた。

先輩は恥ずかしそうにして僕を見て、

「子供はね、知らなくても良いんだよ」

と言ったので、どっちなのか分からなかった。

「え〜 2つしか違わないじゃ無いですか〜」

「本当に知りたいの? 何故?」

「だって先輩が経験有るんだったら
教えて貰おうと思って……」

「だから言ったでしょう?
僕は何時でもカモ〜ンだって!」

「先輩! 実戦じゃなくって知識です!」

僕のあまりにもの真剣さに、
先輩も観念したのか、
そこはジョーダンを言わずに、

「ハハハ、それがね、教えてあげたいのは
山々だけど、実を言うとね、
僕だってまだ知らなからね〜」

と教えてくれた。

「え〜 僕、先輩は夏休みの間にてっきり
済ませたかと……」

「まあ、いろんな子とデートした事は
否定しないけど、
やっぱり番になりそうな子は居なかったね。
僕は考えが古いから、
そういう事はきちんとしておきたいかなって」

「は〜 先輩がまだ僕の知ってる先輩で良かった!」

「うーん、それって複雑かも……
要君だってもう直ぐ、
僕の知らない要君になるでしょう?」

そういって先輩がウィンクをしたので、
僕の顔が爆発した様に真っ赤になった。

「後3日だね。
要君こそ、経験したら
どうなったのか教えて?
未来の参考にするから!」

そう言って先輩は笑った。

今日は終業式。
そして明日から冬休み。
佐々木先輩との旅行まで3日残すのみとなった。

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