消えない思い

樹木緑

第118話 後夜祭

後夜祭の目玉は後夜祭の最後に行われる、
ミスター・ミス クレイバーグ学園の発表。
2日間にわたり、
投票が行われていたわけだけども、
2日目は、外部者の投票も集められた。

ミスターとミスにはもちろん
王冠やマント、商品などが与えられる。

これらの費用は文化祭の前に、
生徒会室前に募金箱が置かれ、
その募金により賄われる。

基本的には、
ミスターとミスがデートをするための、
○ズニーパークのデートチケット。

このチケットを使って、
ミスターとミスがデートをすることは
必須らしかった。

なので、必ず文化祭実行委員に日程などの
旨を伝えて、実行委員から、現場で
証拠として写真を取られる必要があった。

そしてその写真は大きく
校内に張り出されることになっていた。

ミスター・ミスの予備選は既に行われており、
候補には佐々木先輩と矢野先輩も挙がっていた。

僕は佐々木先輩がミスターになって、
僕の知らないミスとデートをするのがイヤだったので、
悪いと思いながらも、矢野先輩に投票してしまった。

でもこの事は二人には内緒だ。

後夜祭が始まると文化祭実行委員達に選抜された音楽が流れ、
生徒たちはキャンプファイヤーを囲んで、
踊ったり、見学したり、告白したり、
中には薩摩芋などをを持ってきて、フォイルに包んで、
キャンプファイヤーに投げ入れたりしている人なども居た。

その頃、僕と佐々木先輩は、
皆の視線から隠れるようにして生徒会室に逃れていた。

佐々木先輩が、後夜祭の生徒会室には
誰も来ないからと判断したためだ。

旧生徒会役員は、
この文化祭を持って引退し、
生徒会室に来ることはもうなかった。

現生徒会役員は、最後の仕上げとして、
後夜祭の中を実行委員達と共に、
てんてこ舞いに走り回っていた。

普段でさえも、余り人が来ない生徒会室。
こんな忙しい時だからこそ、
生徒会室は丁度良い逃げ場となった。

僕と先輩は生徒会室の窓際の壁に
もたれながら床に座り、
手を取り合って暫く窓に反射する
キャンプファイヤーのオレンジの光を眺めていた。

「あっという間に終わってしまったな」

先輩が先に口を開いた。

「楽しかったですね。
準備なんか色々と大変でしたけど、
まさか矢野先輩が、
僕と先輩が後夜祭で楽しめるようにって
僕の変装を準備していたんてちっとも知りませんでした」

僕がそう言うと、先輩が僕の方を見て、
僕の頬をそっと撫でた。

「もうすっかり日も落ちて、
要の顔が良く見えないよ。
でも、炎の光が反射していつもとは
違った雰囲気があるよな」

僕が先輩の肩に頬を寄せると、
先輩がそっと僕の肩を抱き寄せた。

「女の人って凄いですよね。
浴衣って歩くの大変だし、
座るのなんかも足をそろえてないとダメだし……
ちょっとでも浴衣が乱れると直すのも大変だし……」

そう言うと先輩が、

「脱がしてあげようか?」

と言ったので、僕は急に恥ずかしくなった。

「俺さ、一度やってみたいんだよな。
あの帯を脱がすやつ!」

「え~! あの イヤ~ン、クルクルってやつですか?
先輩、それ、エロ漫画の
読み過ぎじゃないんですか?」

僕が笑いながらそう言うと、
先輩が僕の顔を見て、マジな顔をして

「あれは男のロマンなんだよ!」

と言い放った。

「先輩、そのセリフ、
漫画でも言ってますよ!」

僕がそう言うと、先輩は僕の鼻を摘んだ。

「ところでさ、お前、
化粧とかしてるんだろう?
落とさなくて良いのか?

浴衣ももう脱いだ方がよくないか?
かつらも頭蒸れたりするし……」

「んー やった方が良いんでしょうけど、
着替え、矢野先輩の教室に置いたままだし、
まだ先輩とこうしていたいです。
先輩と一緒に居る時間って過ぎるの早いし!
凄く貴重です!」

「だよな、一緒に居る時間って
凄い早く過ぎるよな。
要が足りなすぎる~~!

早く大人になって、
自立したい……

そして必ず要を嫁に?ん?婿か?
ま、どっちでも良いか!
にもらって、子供作って、
一緒に暮らしたい」

「そっか、そうですよね、
僕、子供産めるんですよね?
だったら、僕は先輩の子供が産みたい。
他の人の子供なんて、絶対嫌です。

あ、でも僕、女の人に
産んでもらう事も出来るんですよね?
でも、それも嫌だな~
やっぱり、先輩でなきゃイヤだ」

「うん、俺も要以外は考えられない」

「不思議ですよね、
まあ、中には僕の事、
女の子見たいって言う人も居ますけど、
僕、体はちゃんと他の男性と変わらないのに、
普通に子供が産めるって……」

「ハハハ、まあ、タイミングが合わないと
それもダメなんだがな。
お前、発情期フルで経験したか?」

「フルでってどういう意味ですか?」

「完全に発情した状態になる事だよ」

「あ、それ、無いかもですね。
発情期始まると抑制剤直ぐに飲むから、
何時も始まり辺りで収まりますね。
完全に発情するとどうなるんでしょうね?
想像出来ません」

「俺も出来ないな。
こればかりは経験してみないとな。
お前のとこの両親は経験してるんだよな?
現にお前が居るしな」

「ぎゃ~ イヤだ~ 両親の情事なんて考えたくないけど、
それってやっぱり完全状態で事に及んでるって事ですよね?」

「そりゃそうだろうな。
俺もラット起こさないとこぶが出来ないしな。
それに完全に発情しないと、排卵しないだろ?
あれ? 排卵するから発情するのか?
どっちだ?
そこのとこ、性教育どうなってるんだ?」

「え~ 僕分かりませんよ~
そんな授業無いですし、
親にも聞いた事無いですね。
そもそも、今まで考えたことも無かったですよ!
でも発情期で無いと妊娠しないって言うのは
確実ですね」

「あ~ 要の完全な発情を生で感じてみたい」

「それ、ちょっと怖いですね」

「実を言うとな、正直言ってな、
俺は要が発情している姿を、
考えない日は無いな。
ハハハ、自分で言って恥ずかしいな」

そう言って先輩は真っ赤な顔をした。

「でもそうなったら、僕達どうなるんでしょうね?」

「どうなるんだろうな?」

それから僕達はお互いを見つめ合った後、
磁石に惹かれるように口付けを交わした。

先輩と離れたくない。
こんな穏やかな気持ちになれるのは、
先輩以外にあり得ない。

先輩と唇を重ねただけでこんなに溶けそうになるのに、
完全に発情した状態でってほんとにどうなるんだろう。

そして先輩が完全に発情した時って、
一体どうなるんだろう?

僕は反射したオレンジの色を
窓にぼんやりとに見ながら
そんな未知の世界に意識を飛ばせずにはいられなかった。

「消えない思い」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く