消えない思い

樹木緑

第109話 夏が終わる

僕の誕生日の後は、
あれは何だったのだろうとでも言うように、
矢野先輩とは、まるで何もなかったように、
毎日が平穏に過ぎて行った。

そして何もなかったように日々が過ぎるのも、
今までの経験から言うと、
分かっていたことかもしれない。

でもそれとは相反して、矢野先輩の愛情表現は
弟のように可愛がるを通り越して、
恋人に触れるように
段々エスカレートしていっているように感じた。

一方インハイで佐々木先輩の率いるバレー部は、
準々決勝までは進んだけど、
惜しくも、そこで負けてしまった。
そして佐々木先輩の青春を掛けた?
クラブ活動は幕を閉じた。

大学から色々とスカウトは来たらしいけど、
大学ではバレーを続けないらしく、
これが本当に最後の最後になってしまった。

夏休みの所為か、少し疎遠になってしまった
矢野先輩とは裏腹に、
クラブ活動の無くなった佐々木先輩とは、
頻繁に連絡を取り合い、
これまで思い切り、
合えなかった時間を取り戻すかのように、
デート?を重ねた。

そして矢野先輩に頂いた温泉宿の招待券は、
有難くお盆休みに使わせていただこうと思っていたけど、
生憎僕の発情期が訪れてしまい、
薬はちゃんと効いて、副作用も無かったにもかかわらず、
両親からの反対で、
冬休みの出来ればクリスマスにと
予定を変えた。

でも、順調にいけば?
初めての発情から丁度4か月なので、
その頃又、発情期が訪れる頃かもしれないが、
とりあえずはと言う事で、
予約が埋まる前に決めておいた。

そしてもうすぐ夏休みも終わろうとしてる頃、
僕は夏休みの最終宿題の追い込みとして、
佐々木先輩に泣きつき、
青木君や奥野さんも踏まえて、
図書館での勉強会と化していた。

「猛は分かるんだけど、
何だか赤城君が夏休みの宿題、
貯め込んでるって意外~」

「あ、それ、俺も思った。
この中で宿題やってないヤツ、
俺だけだと思っていたわ。
まあ、瞳はちょっとうたがわしかったけどな」

「ちょっと~
失礼ね。
でも当たっているだけに、
何も言えないわ~」

「二人とも僕の事、
買い被り過ぎですよ。
普通に他の人と同じように
夏は遊び惚けてたので!」

「そう言って、またまた~
佐々木先輩とデート三昧だったんでしょう?
先輩がいない所で詳しくおしえなさいよ!」

そう奥野さんが耳打ちすると、

「お前たち、分かってるんだったらさ~
早くそこの問3,4,5終わらせろよ。
俺は早く要と二人っきりになりたいんだよ!」

と、佐々木先輩も最近は自分の気持ちを隠さない。
佐々木先輩的にも、
僕達の事を知ってくれている人が居ると言う事は、
心強いみたい。

最近は、佐々木先輩も矢野先輩に負けず、劣らず、
ストレートに愛情表現をしてくれるようになった。
そして、段々恋愛の仕方が
スマートになってきているような気がする。

最初はあんなにタジタジだったのに!

でも、さすがに人前でキスをしたり、
甘い言葉を囁いたりはしない。

それはやっぱり、僕と先輩の
ささやかな秘密の時間だった。

「先輩、最近大胆ですよね~
私たち以外が聞いたらどうするんですか~?」

僕はそうだよ!と思いながら、
周りを見回した。

「そんな心配しなくて良いぞ。
こんな夏休みもあと3日で終わるって時に
図書館に居るのって多分俺たちぐらいなもんだぞ」

確かに周りを見回しても、
高校生らしき人達はあまりいない。

それよりも、
子供の絵本を読む会があるのか、
小さな子供達と、若いお母さん達が
固まって子供の絵本広場に居た。

お母さん達は井戸端会議をしているらしく、
子供たちは割と自由にウロウロとしていた。

中には、既に絵本と手に取って、
ページをめくっている子もいた。

子供たちが絵本をキャッキャしながら
見ている姿を見た時、
絵本の挿絵を描くのも
面白いかもと思った。

「要、お前、その問2間違ってるぞ!
それ、凡ミスだな。
あれほど注意しろって言っただろ」

「あ~ もう勉強イヤ~
何で夏休みに宿題あるの~」

奥野さんが頭を抱えて悶えだした。
そんな中で、

「終わり!
やり~」

そう言って青木君が一番に宿題を終わらせた。

「お、全問正解だな」

そう佐々木先輩に言われて、
何~! と思った
僕と奥野さんは、お互いを見つめ合い、
目で語らった後、
どちらが先に終わるか競争を始めた。

「出来た!」

ほとんど同時に僕と奥野さんは問題が終わった。
先輩が解答合わせをしてくれると、
二人とも正解だった。

「やり~!
じゃあ、私達は先輩がストレスでハゲる前に
お暇しますわね~
これからはお二人の時間を満喫して下さいね~
おほほ~
ではごきげんよう~」

そう言って、青木君を引っ張って図書館を去って行った。
相変わらずな奥野さんに、僕は心が温かくなった。

「先輩、折角の夏休みなのに、
今日は僕達の為にありがとう。
これから僕達はどうしますか?」

僕は、僕の目の前に座っている先輩に
話し掛けた。

「そうだな~」

そう言って、先輩は自分の足を僕の足に絡めてきた。
僕が先輩の足に、僕の足を絡み返すと、

「今日はこのまま~」

と言いかけた時、集団でいる子供の何人かが、
読書会が始まるまで
図書館を探検していたらしく、
僕達の所に来て、しゃがみ込むと、

ジ~ッと足元を見た後、

「あ~ 皆来てみろよ!
このお兄ちゃんたち、
机の下で足が仲良ししてる!」

そう言うと、その子と一緒に探検をしていた
子供たちが僕達の周りに集まって来て、

「ほんとだ! ほんとだ!
パパとママみたい!」

「二人はカップルだ! カップル!」

「チューしろ、チュー!」

といきなり大声で話し掛けてきたので、
僕達が真っ赤になって子供たちを見下ろすと、

「わ~
逃げろ~!
捕まるぞ~!」

と駆け出して行ったので、
子供のお母さん達は、慌てて子供たちを
追いかけまわして、
僕達の方を見て、気まずそうに

「ごめんなさい」

と言って頭をペコペコ下げていた。

僕と先輩は真っ赤になりながらゼスチャーで、

『全然大丈夫ですよ!』

と言った後、

「恐るべし子供の正直さだな。
また何か言われる前に出るぞ」

と僕達も図書館を後にした。






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