消えない思い

樹木緑

第94話 予選第1日目終了

「俺は下に行って先輩達と合流しなきゃいけないけど、
矢野先輩たちはどうしますか?」

青木君がそう尋ねてきたので、

「青木君と奥野さんは先に下に行ってて。
直ぐに追いかけるから」

と言って、矢野先輩は
僕が落ち着くまで一緒にそこに居てくれた。

「じゃ、先に行ってるよ。
階段の下で待ってるから」

そう言って奥野さんは青木君と
下に降りて行った。

「大丈夫?
落ち着いた?」

矢野先輩が心配そうに僕を覗き込んだ。

「すみません。
僕って何時も先輩に甘えてばかりで……」

そう言うと、

「あれから裕也と話してないんでしょう?」

そう先輩が聞いてきたので、
ビックリした。

「何故分かるんですか?」

「まあ、分からないでもないけどね。
明らかに裕也もちょっと変だし。
要君も、裕也の影が最近無かったしね」

「あ、でも大丈夫ですよ。
昨日少しメッセージで話しました。
インハイ終ったら話そうって……
只……どんな話になるのか……」

僕がそう言うと、矢野先輩はため息を付いて

「やっぱり僕が言ったことが
引き金になったのかな?」

と小さく独り言のようにボソッと言った。

先輩の独り言のような
つぶやきを聞いた時、

“やっぱり何かあったんだ”

と確信した。
でも、矢野先輩から
それを聞き出そうとは思わなかった。

イヤでも、明日の夜は
佐々木先輩と話をすることが出来る。

僕はどんなにイヤな事を告げられることになっても、
佐々木先輩の口から聞きたいと思った。

「先輩、僕もう大丈夫です。
下へ行って奥野さんと合流しましょう」

下では新しいチームが
早速次の試合の準備に入っていた。

階段を下りて行くと、
奥野さんが階段から少し離れた所で
待っていてくれるのが目に入った。

僕と矢野先輩は急いで階段を降りて行き、
奥野さんと合流した。

「ねえ、明日はどうする?
私はお弁当作ってくる予定だけど、
また一緒に応援する?
多分明日は一日居る事になると思うけど……」

奥野さんの問いに僕は、

「勿論来ますよ。
明日の会場はここですか?」

と答えた。

「ちょっと待ってて、
もうすぐ猛も帰れると思うから、
聞いてみる。
先輩はどうしますか?」

「要君が来るんだったら、
僕も行こうかな~」

「じゃあ、私、お弁当一杯作ってきますね。
猛は一杯食べるし!」

「奥野さんのお弁当か~
体育祭の時も凄く美味しかったから
楽しみだね~」

そう言って先輩が舌を鳴らした。

そう言う事で、明日ももう一度、
3人で応援に来ることになった。

話しているうちに、青木君が
今日のミーティングを終えて、
僕達の所にやって来た。

「お疲れ~」

そう奥野さんが労いの言葉を掛けると、

「皆揃ってるから佐々木先輩も一緒に帰るって。
だから10分待っててって。
今監督と明日の調整をしてるところだから」

青木君がそう言った途端に僕の背なかに緊張が走った。

心なしか、汗も流れていってるような感覚だった。

矢野先輩が僕に耳打ちをして、

「大丈夫?
ちょっと緊張してる?」

と聞いてきた。

僕は先輩の方を見て、

「少し……
でも、それよりも嬉しい方が勝ってるかも」

と返した。

「最近正直だね」

「先輩が言ったんでしょう。
隠し事するなって」

僕がそう言うと、先輩が僕の頭を抱えて、
ワシャワシャと頭を撫でてくれた。

「先輩、それ前からやめて下さいって
言ってるじゃないですか~
痛いですってば~」

そう言ったのと同時位に、

「先輩!
こっちこっち」

と青木君が呼び掛けているのが
聞こえてきた。

途端にまた、僕の背なかに緊張が走り、
筋肉が硬直したようになった。

「お待たせ!」

そう言って、ハアハアと
息を切らしている先輩の声が聞こえた。

凄く久しぶりに先輩の声を聴いたような気がした。
途端に硬直していた体から力が抜けた。

あれ?
あれ?
これ何?
緊張のし過ぎ?
体がフワフワする。
それとも僕、運命の番の声で溶けちゃった?
そう言うのってあるの?

あっ……目が回る……
どうしよう、立ってられない……

貧血か?

「矢野先輩……」

僕は頭を抱えていた先輩の肩に寄り掛かった。

「……ん?
どうしたの?」

「僕……気分が……」

そう言って矢野先輩の腕の中に倒れ込んだ。

そして暫くして、
僕は木陰で大きな木にもたれて座る
佐々木先輩の膝の上で目覚めた。



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