消えない思い

樹木緑

第81話 僕らの事情

「あ~ これはちょっとヤバい奴だな」

「え? ヤバいって?」

「これ、俺以外にも行き渡る匂いだぞ」

僕はドキドキが止まらなくて、
体が熱くなるのが止められなくて、

「どうしよう~? 先輩。
僕、コントロールできません……」

と少し不安になって来た。

公園にはまだ沢山の人が行き交っていて、
フェロモンが出ていると聞くと、
皆が僕の方を見ているような気にさえなって来る。

「これ、俺にもヤバいかも……」

先輩がそうポツリと言った。

ドキリとして先輩の方を見ると、
息が荒くなっている。

僕はどうしたらいいか
分からなくなってオロオロとしてきた時に
後ろから、

「ほら、ほら、
だから言わんこっちゃないでしょ」

と矢野先輩の声がした。

僕は矢野先輩の顔を見た途端、
凄く安心してホッとした。

「優香の家との見合いの席、
抜けてきたの?」

矢野先輩のそのセリフに僕は、
え?っと思って佐々木先輩の方を見た。

「見合いじゃないよ。
定期的な顔合わせさ」

そう言いながらも、
佐々木先輩は少し息苦しそうにしてる。

「ほら、これ飲んで」

そう言って矢野先輩が
ピルとお水のボトルを先輩に渡した。

「やっぱり、運命の番って
少しのフェロモンでもダメになってしまうんだね。
僕は少し頬が蒸気する程度に感じてるだけだけど、
裕也はまるで麻薬を打たれたようになってるよ」

そう矢野先輩に言われ、

「先輩はピル飲んでないんですか?」

と僕は聞いた。

「ハハハ、いや、まさか、こんなところで
盛っているとは思わないからね。
何の準備も無くここまで来たよ。
だから、ピルも飲んで無いよ」

と先輩は笑っていたけど、
目は冗談を言っているような目では無かった。

「すまん、うかつだった。
要に気易く触るもんじゃないな。
コイツが凄いウブだって事、
忘れていたよ
お前は大丈夫か?」

佐々木先輩が心配して
矢野先輩に尋ねると、

「さっきも言ったけど、
僕にとってこれだけのフェロモンは
余り影響は出ないみたい
運命の番って凄いんだね。
多分、ピル飲まなくっても
大丈夫だと思う。
ほら、要君も落ち着いてきてるみたいだし
多分、発情期レベルにならないと、
そこまで影響はないと思う」

と矢野先輩は答えた。

「お前がラット抑制剤を常備してたのって、
要の為だったんだな」

「僕、要君に要君を守るって約束したからね。
それは僕を含むって意味でもね」

そう言って矢野先輩は僕の方を向いて、
僕にウィンクをした。

佐々木先輩は矢野先輩の僕に対する
気使いに凄く打ちのめされたような
感じだった。

「俺、余り、深く考えてなかったよ。
運命の番のフェロモンがここまでだなんて」

そう言って僕を気不味そうに見た。

先輩のその表情に僕は少しドキリとした。

先輩、何考えてる?
運命の番って重い?
やっぱり、Ωは面倒くさい?
もう嫌になった?

「浩二、すまなかったな。
ピル、ありがとうな。
こんなところで要を襲わなくて良かったよ」

佐々木先輩は、
お水の入ったボトルを一気に飲み干して、
深呼吸しながらそう言った。

「君はもっとΩについて
学ぶべきだね。
特に、運命の番を見つけた
今となってはね。
好きだ、惚れただけでは、
どうしようも出来ないこともあるんだからね。
もしどうにかなって苦しむのは君たちなんだよ
まだ高校生なんだし、
まだまだ親の保護が必要な年なんだからね」

矢野先輩の説教に佐々木先輩も、

「もっともです」

と、シュンとしている。

そうか、僕達の場合は
ただ好きだとか言うだけでは
どうにもできないんだ。
まだ高校生だし、
先輩には迷惑を掛けないようにしなくては……

そう思っていると、

「ほら、二人共行くよ」

と矢野先輩言ったので、僕は

「家へですか?」

と咄嗟に聞いた。

「それ以外何処がある?
要君が慌てて出て行ったから、
お父さんがオロオロとしていたよ。
僕が説明したら
お母さんが裕也も連れて来いってさ。
ま、優香の所が大丈夫ならの話だけどね」

そう言って矢野先輩は
佐々木先輩をチラッと見た。

佐々木先輩は両肩をヒョイっと少し上げて、

「優香のとこは良いよ、
どうせ親同士が優香を
チヤホヤする会で終わってしまうからな
お前達に付いて行くよ」

そう言って、佐々木先輩も僕の家に来ることが決まった。

「裕也と優香のお父さん達は大丈夫なの?
明日新聞の見出しで裕也が
行方不明なんて嫌だからね」

矢野先輩がそう言うと、

「ま、そうなら無いよう、
祈っていてくれ」

と、割と本気そうに言ったので、
僕は先輩と付き合うと言う
事の重大さに少しずつ気付き始めた。

でも、佐々木先輩が凄く好きだと思ったので、
その状況に気付かない振りをして
目を閉じる事にした。

後で死ぬほど後悔するとも知らずに……






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