消えない思い

樹木緑

第64話 櫛田君の敵意

ピンポンパンポン~

「お昼の部が10分後に始まります。
生徒の皆さんは……」

午後の部が始まる放送が流れた。

「あ、僕達1年生は午後一である
借りもの競争に出なくちゃ。
そろそろ行こっか?」

「借りもの競争なんて、あるあるで
今どき~?って感じもあるけど、
もし好きな人ってでたらどうする?」

笑いながら奥野さんが聞いてきた。

「好きな人が出たら、
直ぐに僕の所へ来なさい!」

お父さんが真剣な顔をして答えた。

「お父さん、要君に憧れる生徒たちの
夢と希望をくずさないで下さいよ~」

と矢野先輩が答えると、

「え? そうなの?
要君って人気があるの?」

お父さんがオロオロとして聞き返した。

「お父さん、矢野先輩は冗談で言ってるんだから
本気にしちゃだめだよ~」

と僕が返すと、

「お父さん、要君は本当にモテるんです!
自分が知ってるだけでも、
そうだね~ 
1,2,3、…… 6人くらいは居るね。
少なくとも3年生の間では!」

「え~ 僕聞いた事無いです~」

僕がそう言うと、矢野先輩は僕の方を見つめた。
そして、

「そりゃあ、僕が牽制してるからね。
もっといるかもだけど、
多分その事が自然と触れ回ってるんじゃないかな?」

と言ったので僕はびっくりしてしまった。

佐々木先輩の方を見ると、
彼も初耳だったようで、
少なからずショックを受けているような感じだった。

そしてそんな佐々木先輩をジーっと見ていたのは、
櫛田君だった。

「あの……
私はもう生徒会役員席に戻らないといけないので
お先に失礼します。
お弁当とても美味しかったです。
今日はありがとうございました」

そう佐々木先輩が挨拶をすると、
僕もそれに続いて、

「僕達も急がなきゃ、
もう一年生は集合掛かってるよ!」

と言って、皆それぞれの場所へと
散って行った。

僕が奥野さんや青木君と
集合場所へ歩いて行ってると、

「ちょっと君!
赤城君!
ちょっと話があるんだけど!」

そう言って、櫛田君が後ろから声を掛けてきた。

僕が後ろを振り返ると、

「君さ、何故佐々木先輩と
一緒に居たのか分からないけど、
あまり調子に乗らない方が良いと思うよ。
聞いたでしょう?
彼の家系……
僕は由緒あるαの両親から生まれたΩだから、
彼の家柄に釣り合うんだけど、君はどう?
僕達とは格が違うでしょう?
父親はαのようだけど、しょせんその辺に溢れてるαでしょ。
それに君のお父さん、不審者の変態みたいだし!
それにΩな母親がどこの馬の骨かも分からない
君の出る幕は無いから。
じゃ、それだけ」

そう言って櫛田君は反対方向に向かって去って行った。
僕は唖然として開いた口が塞がらなかった。

彼が去った後、奥野さんと青木君は顔を見合わせて、

「凄い奴だな。
何か勘違いしてると思うけど、
佐々木先輩、あいつの事は
全然眼中に入ってないよな?
それに両親は関係なくね?」

「だよね、
先輩のお弁当、
僕にく♥だ♥さ♥い♥
だもんね~
佐々木先輩の反応もほんと
ツボに入ってもう笑いをこらえるのに
必死だったわよ~」

「要、余り気にするなや。
あ、でも見たか?」

青木君が唐突に尋ねたので、

「何を見たのですか?
佐々木先輩が何か?
それか櫛田君が?」

そう尋ねると、

「いや、お前のお袋さん、
佐々木先輩の事
じ~っと見ては目を離して、
じ~っと見ては目を離して
かと思いや今度は要の事じ~っとみてな。
いったいお前のお袋、
何がしたかったのね?」

「そうよね、
私も気付いたわ。
佐々木先輩と赤城君を見比べて
何だか観察するように見てたわよね?」

そう言えばお母さん、
佐々木先輩と握手をした後
何か言いたげだったような……

一体何だったんだろう?
凄く気になったけど、
僕達は一年生集合のアナウンスを基に、
東口へと駆けて行った。



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