消えない思い

樹木緑

第53話 体育祭の朝

僕は思いっきり新鮮な朝の空気を吸って、
両腕を伸ばし深呼吸した。

今日の天気予報は晴れ。
明日からは雨に変わるそうなので、
丁度良いタイミングで体育祭が開かれる事になった。

「お母さんおはよう!」
僕はキッチンで朝食の準備をしているお母さんに
モーニングのキスをした。

「要君、本当に応援に行かなくても良いの?」
僕の声を聞きつけて、お父さんが寝室から出てきた。
どうやらお父さんは、まだ僕の体育祭に来ることを諦めてないらしい。

「ダメだと言ったら、ダメなの!
絶対木の陰とかから覗いたりしないでよ!」
僕はそう言ってお父さんに牽制を掛けた。

お父さんはちょっとシュンとして可哀そうかな?
とは思ったけど、中学生の時は凄く恥ずかしい経験をしたので、
高校生になった今では、父兄の参加は自由だったため、
絶対参加なしと決めていた。

「じゃあ、僕矢野先輩と公園で待ち合わせしてるからもう行くね。」
用意してあった味噌汁とご飯を
口の中に掻き込んで、早々と家を出た。

幸い今日の所持品は体操服とお弁当のみ。
手軽に、準備も早く済ませることが出来た。

公園まで来ると、矢野先輩はもう既に池の所で僕を待っていてくれた。

「先ぱ~い!」
急いで駆け寄ると、先輩はフンフン言いながら、手をクルクルとまわしたり、お辞儀したりしていた。

「先輩、何してるんですか?」
「これ、全校ダンスの練習。イメージトレーニングしてたところ」

先輩は僕に向かって、お手をどうぞと言うように手を差し出した。

「あ、先輩、そこ違いますよ」

そう言って僕は先輩の手を取った。
全校ダンスはフォークダンス。
先輩の練習していた部分は最初のパートナーを迎える部分らしかった。

「はい、先輩、パートナーが前に来たらこうです」
そう言って僕の手を先輩の手に乗せてお辞儀をした。

「大体さ、全校ダンスする意味ある?
今どき高校生にもなってフォークダンスって小学生かって!」
と、珍しくブウブウとしている。

先輩は余りダンスは得意ではなさそうだ。
というか、スポーツ全般あまり得意ではなさそう。

僕はαって大体、頭脳明晰、 スポーツ万能、容姿端麗だと思っていた。
でも三つ拍子が揃っているαって、
α社会のカーストの一番上に居る人たちのみの様だ。

矢野先輩はスポーツの部分が抜けていた。

「ほら先輩、最初は女子の手を取って軽く会釈するんですよ。」
先輩が軽く会釈した後で、僕達はステップを踏みながら移動した。

「あ、先輩、僕の足……」
「あ、先輩そうやって回ったら腕が……」
「あ、先輩そっちに行ったらパートナーが……」
「あ、先輩もっと近ずいて……離れすぎ~」

「おっとっと~」

先輩があまりにも強く力を入れて僕を引いたので、
僕は先輩の胸に倒れ込んでしまった。
僕の倒れ込んだ勢いに乗せ、先輩も倒れ込んでしまったので、
僕達は重なり合ってそのまま地に倒れ込んだ。

「痛・た・た・た~」
先輩が先に起き上がり、僕に手を差し伸べてきた。

「ごめん、ごめん、大丈夫だった?」

先輩の差し出した手を取り、立ち上がり、
少し汚れた制服をパンパンと叩いた。

「先輩、本番で女の子に恥をかかせたらダメですよ。」
「何故、要君が僕のパートナーじゃないんだろう!」

先輩はそう言いながらもう一度僕の手を取り、
僕をクルッと回してそう言った。

「それはですね、先輩、僕は女の子じゃないからです。
それに、団も違いますよ。」
「なんだよね~
好きなパートナー選んで良いんだったら、
迷わす要君選ぶんだけど……」

「え? 本当に? 僕を選んでくれるんですか?
先輩、嬉しいです~」

「本当に嬉しい?」
「そりゃあ、嬉しいですよ~」

「じゃあ、好きなパートナー選んで良いんだったら、
要君も僕をパートナーに選んでくれるの?」
「もちろんですよ!」

「本当に? ……裕也よりも?」

僕はビクッとして先輩を見上げた。

 


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