消えない思い

樹木緑

第46話

「は~い。ごちそうの用意が済んだよ~。皆ダイニングにおいで~。」
お母さんの掛け声と共に、僕達はダイニングへと急いだ。
「うわ~凄い美味しそう!」
そう言って僕は舌を鳴らした。
「優君の料理は一番さ。凄く美味しいんだよ~。」そう言ってお父さんがお母さんにキスをした。
僕はギョッとして先輩の方を見たが、先輩は何食わぬ顔でその場に立っていた。
そして、「今日はお招きありがとうございます。もう最初っから仲良し見せつけられて、もうお腹いっぱいです!」
とジョークも言うほどだった。

は~本当に心臓に悪い。
お父さんも人前では少しは遠慮してよね!

「本当にすみません。空気読まない父親で…」
僕はそう言って冷や汗を流す以外無かった。
「何を言う要君!両親が仲がいい事は素晴らしいんだぞ!」
お父さんはそう言って自分を正当化しようとする。
「ほらほら、早く食べないと、みんな無くなっちゃうよ!」
そう言ってお母さんが助け舟を出してくれたので、僕達はそれぞれに席に着き、料理を食べ始めた。

先輩の為に用意されたのはお寿司色々。
色んな具を自分で選べて巻ける巻き寿司から、チラシ、いなり、お刺身にお吸い物。

「この寿司ご飯、酢との割合が凄く良いですね。」
そう先輩が言うと、
「でしょ~、でしょ~。優君の料理は何でもおいしいけど、このすし飯が一番なんだよ!」とお父さんが返した。
「お父さんは、他のものだとそれが一番なんでしょ?」と僕が言うと、
「だから優君のは何でもいいの!」とお父さんが負けじとお母さんを褒めている。
「ごめんね~矢野君、司君、僕に甘すぎるから…」とお母さんも突っ込みを入れて来る。
僕はその会話をハラハラとして見守っていたけど、先輩に害をなしたような感じは見受けられなかった。
僕のそんな気苦労とは裏腹に、
「お二人、本当に仲がいいんですね。理想の夫婦です。」
と先輩も何を言っている~
これではお父さんの武勇伝が始まってしまう~
そうなると、否応なしに二人の結びつきも目にしてしまう。
僕はどうにか話題を変えようと試みたけど、無駄な努力だった。

「僕が優君と出会ったのはね~、高校の入学式でね~。」
と始まってしまった。
僕はがっくりとうなだれて、ドキドキとしながら、そして先輩をチラチラと見ながらお父さんの武勇伝を再度聞いた。

「へ~運命の番って凄いですね~」
「そうなんだよ~僕、絶対恋愛なんてしない!絶対αになんて屈服しない!って頑として決めてたのに、落ちちゃったよ~」
とお母さんまで…
ほんと、知らないって怖いって、この事だなと僕はぼんやりと思っていた。
「それで、これだって言う決め手は何でしたか?」
と先輩が聞いた後で、
「あれ?そう言えば要君もこの間同じような事、聞いてきたよね?もしかして二人の間に何か~?」
とお父さんが変な勘繰りを入れて来る。
するとお母さんまで、
「何、何、要君と矢野くん何かあったの?」
「べ、べ、べ、別に、な、な、何もないよ、偶然、偶然だよ!ね?先輩?」
僕は余りにも慌てて否定したため少し噛んでしまった。
先輩の方を向いて同意を求めると、先輩はただ意味深に微笑むだけだった。

先輩は僕と佐々木先輩の事に気付いてるのかな?
まぁ、気付いてても、先輩にはどうでも良い事かぁ~
でも…映画館の繋ぎ手は何だったんだろう?
僕の反応を見るのが只単に面白かった?
あ、そう言えば佐々木先輩には明日返事するって言ったっけ?
どうしよう?

「要?」
「要君?」
「あ、ごめん、なんだっけ?」
僕は少しトリップしていた。
「これからケーキだよ。ほら、プレゼント持ってこないと。」
お母さんに諭され、自分が先輩の誕生日のおもてなしの最中だと言う事に気付いた。
「あ、そうだった、ごめん、ごめん。二人があんまり突っ込んで変な質問ばっかりするからすっかり忘れてたよ~。
僕の部屋にあるからちょっと取ってくる。」
そう言って僕は自分の部屋に急いだ。
僕が先輩に用意したプレゼントは、合格祈願のお守りと、甘いものと一緒に飲むコーヒーや紅茶が好きな先輩に色んなハーブティーの詰め合わせと
ティーカップとソーサー。
光沢のある白いカップに金のラメが入り、金の縁取りに先輩の名前のKのイニシャルが入ったシンプルなカップだった。

「じゃ、ハッピーバースデー歌うよ~」
そう言ってお母さんがケーキに18本のローソクを付けて持ってきた。
僕達がハッピーナースデーを歌うと、先輩は一気にろうそくを消した。
そして僕は用意しておいたプレゼントを先輩に渡した。

「あ、お守り!」
「先輩、僕、湯島天満宮まで行って祈願して来たんですよ!」
エッヘンと言うように先輩に説明した。
「そして受験の追い込みに入った時の寒い夜のお供にこれ!」
そう言って、ティーセットを先輩に渡した。
「要君、凄い嬉しいよ。ありがとう。どちらも大切に使わせてもらうよ。受験も頑張んないとね。」
そう言って先輩はすごく喜んでくれた。

「そしてこれは僕と優君から~」
そう言って先輩に差し出されたのはお父さんの映画のDVDセットと、お母さんのベストCD集。
もちろんサイン入り。
「ちょっと~二人とも、もっと何か他に無かったの?自分のサイン入りのDVDとCDなんて…宣伝してるみたいじゃない~。」
僕は少し恥ずかしかったけど、先輩は大喜びだった。
「要君、今を時めく蘇我総司のサイン入りDVDにチケットを取ることが難しい如月優のサイン入りCDだよ?
二人の大ファンな僕としてはこれって永久保存ものだよ!」
「え~?そう言うものですか~?」
「ハハ、要君が恵まれすぎて分からないだけだよ!僕がこれオークションに出したら一体いくらで売れるか!」
「先輩!」僕がそう言うと、
お父さんとお母さんが
「矢野君、ほらほら、もっと言ってあげて!」
そう言って大笑いしていた。

「で、話は戻るんですが…お二人が運命の番だって言う決め手は?」
先輩が再度聞いてきた。
僕は覚えてたのか~とちょっとハンマーで頭を殴られたような気分になった。
出来れば、その部分は先輩と一緒には触れたくなかったが、避けられないようだ。

お父さんとお母さんは先輩を見据えて、
「匂い!」
と、一緒に言い切った。

僕は目を閉じて上を向き、先輩は
「あ~やっぱりそうだったんですね。」と静かに言った。




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