消えない思い

樹木緑

第40話

「先輩、何処まで連れて行くんですか?僕もう着替えないと、合同練習に間に合わないんですけど…」
先輩は何も言わず歩き続けている。
「先輩、先輩!」

先輩は立ち止まって僕の方を振り返った。
「ごめん…」
「何がごめんなんですか?」
先輩は珍しくしおらしくしている。
「キスなんてするべきじゃ無かった。」
その言葉に僕はドキリとした。

それって、僕とキスをしたことが間違いだって事?
イヤだったって事?
今度は逆に泣きそうな気分になる。

僕が黙ってうつ向いていると、
「あーいや、俺の言ってる意味は、まだお前の気持ちも確認せずにキスしたことは悪いと思っている…
決して嫌だとかそう言った訳では無かった、って事だよ。」
僕は先輩を見上げた。
「僕、また思ってることが顔に出てましたか?」
「何故かな、お前の思ってる事って、手に取るように分かるんだよ。」
その言葉を聞いて、僕も同じような思いを先輩に感じ始めていた事に気付いた。
「あの…あのキスは先輩のせいだけではありません。」

先輩は頷いて、僕を見据えた。

「あの時、僕も先輩とキスをするんだと思いました。そして、僕から先輩に近ずいて行きました。」
「ああ、そうだよな、それが分かって俺は…」
「先輩はもうこれが何を意味するか分かってるんですよね?」
「お前にはまだ分からないのか?」
僕は首を振って、
「恐らく…理解し始めたと思います…」と答えた。

恐らく、僕が思っている事は当たっている。
すっと分からずに困惑したけど、今は確信に近いものがある。
でも、残りの確率で、僕はまだ、その事実を受け止める事が出来ないでいた。

その時、校内放送が流れた。
「全校生徒の皆さん、これより体育祭合同練習が始まります。
各クラスごとにグラウンドに集合して下さい…
繰り返します。…」

「先輩、続きはまた話しましょう。僕は急いで教室に戻って、体操服に着替えないといけません。」
さすがの先輩も、運が尽きたようだ。
「分かった。後でメッセージする。」
そう言って、先輩はメッセージをするジェスチャーを取った。
「それじゃ、またあとで。」
そう言って去ろうとすると、先輩は僕の腕を掴んで、
「なんだか離れがたいな。」と一言言った。
驚いたことに、僕も同じように思っていた。
でも先輩は僕の腕を離して、
「行って来いよ。」と僕を見送った。

僕は教室へ向かいながら、凄く変な気分になった。
僕はつい、数秒前まで、矢野先輩の事が凄く好きで、振られたけど、やっぱり好きで、ずっと先輩の事を好きなんだろうと思っていた。
僕は、こっちがダメだったから、はいこっち、と言う様な性格ではない。
ましてや浮気何てとんでもないと思っている。
別に矢野先輩と付き合っている訳では無いけど、凄く後ろめたさを感じた事にびっくりした。
これって、佐々木先輩の事を意識し始めているのだろうか?

「おー要、お前、何処まで体操服借りに行ってたんだよー。」
青木君が、教室のドアの所で僕を待っていていくれた。
「すみません~。渡りに渡って偶然に佐々木先輩に会ったので、部活用の予備の体操服をかしてもらいました~。」
青木君は僕の方を「ほ~」と言う様な顔で見て、
「お前、勇気あるな、女子の嫉妬を一斉に受けるぞ。」と言った。
僕はへっ?と思って青木君の方を振り向いた。
「お前、知らないのか?体操服を男子から借りるってな、付き合ってるか、あなたの事、好きですって言ってるようなもんだぞ?」
僕は先輩に借りた体操服に腕を通しながら、
「そう言えば、佐々木先輩も同じような事言ってましたね?」と言うと、
「あのさ、部活中にそれは、それは、かなりの数の女子が来たわ、来たわ。先輩の体操服を借りにな。」
僕は頭をスポッと体操服から出した後、シャツを下ろしながら、
「えっ???先輩の所に体操服を借りに来た女子が居たんですか?」とびっくりして聞いた。
「だから言っただろ。モテるんだよ。でも全部断っていたけどな。だからお前の事心配してるんだよ。知らず知らずのうちに女子トイレに引きずり込まれたりしてな。」
僕は鉢巻を占めながら、「まさか~」と言って、グラウンドに向かって歩きだした。
「でも…あの俺様先輩のどこがそんなに?」僕は不思議でならなかった。
「先輩ってそんな俺様か?ま、強引な所に引かれるって女子は多いしな、それに強引な割には優しいだろ?竹を割ったような性格だし…」
「え?僕に対する態度とは少し違う様な…」
そう言って首を傾げると、
「そう言えばお前、一体いつ先輩と知り合ったんだ?学級委員が参加する生徒会議ってお前はまだ参加してないよな?」
「あ、この前体育館裏を通った時に偶然…休憩中だったみたいで…」
「なるほどな…ん?休憩時間中?もしかしてこの前の事か?!」
僕はハッとして、そう言えば休憩後の練習がなんたら、かんたら青木君が言ってたな~と回想していた。

「あ、もうみんなグラウンドに並んでますよ。走りましょう。」
そして僕達は走ってクラスのところまで行くと、一斉に皆が僕の方を見た。
「だから言っただろ。お前の体操服、目立つんだよ。」
そう青木君が僕を肘でつつきながらヒソヒソと話してくる。
「だって僕、こんな事になるなんて全く想像してなくて…」と困惑していると、クラスの男子たちは、
「青木~お前、体育委員なのにおそいぞ~。ほら、俺らのクラスのプラカード、お前持ちだろうが。」と、ブウブウ言っていた。

今日の合同練習の主な予定は、全校生徒によるプログラムで、入場式、開会式、準備運動で始まり、全校生徒によるダンス、そして閉会式。
来週になると、殆どが体育祭の練習に当てられているが、殆どはチーム結成での練習か、クラスでの練習。
体育祭前日には、一通りのプラグラムの練習となっていた。

入場式の行進は念入りに何度も、何度も行われた。
その間僕は、イヤと言うほど佐々木先輩の姿を目にした。
生徒会長である彼は、生徒の先頭に立ち、校旗を持って行進する。
行進後は、他の生徒会役員と共に前に立つからだ。
それも、僕達のチームの真ん前に。
それに背が高いので、余計に目立つ。
1年生の僕達は一番前のグループで、身長がそこまで高くない僕の場所は前から数えた方が早い。
僕の場所から先輩の位置は丸見えだった。
それと同じで、先輩から僕は丸見えだった。

先輩と目が合った時、先輩が目配せをして、指先で小さくジェスチャーをした。
僕はそれを見て、ランチに誘っているんだと直ぐに分かった。
そして何だか少しくすぐったくなった。
少し前までは、全然知らなかった先輩と、こんな短期間にここまで通じ合う?ようになるなんて夢にも思わなかった。
それも、矢野先輩以外の人と。

この後もう一度、入場式、開会式の練習をやり直した後、午前の練習は終わった。
僕はすぐさま、クラスの女子に囲まれ、何故、佐々木先輩の体操服を着ているのか、質問攻めになった。
そんな中、佐々木先輩が颯爽と現れて、
「ちょと赤城君借りて行っても良い?」
と、きゃ~と奇声を上げる女子の間から、もみくちゃになった僕を救出して連れ出していってくれた。

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