消えない思い

樹木緑

第38話

「よっ要!今日は遅いんだな。寝坊したのか?俺、もう朝弁も食ってしまったぞ。」
「あ、青木君、おはようございます。今朝はちょっと用事があって…学校へは来ていたんですがHRギリギリになってしまいました。」
僕はフ〜っと息をついて席についた。
「どうした?眉間にしわ寄せて浮かない顔してるぞ」と青木君が指摘してきたので、

えっ?顔にでてた?!と思い

「僕、どんな顔してるんですか?」と尋ねてみた。
「んー何かが納得いかないような?困っている様な?そんな感じの顔してるぞ。」

実際に佐々木先輩の反応は納得できなかった。
僕は先輩がもっと食い下がると思い、先輩との言い合いを、ちょっとワクワクとして待っていた。
なのに先輩の話題は日曜日の約束の事ではなかった。
それとは半面に、先輩は見当違いな質問をして来た。
彼に対して運命を感じるか⁈
運命をかんじるか?!なんて、そんな質問されるなんて、100%思いもしなかったよ。
でも…彼は何故そんな質問をしてきたのだろう?
それに、昨夜はあんなにしつこく言い寄っていたのに、今朝になって何故あんなに簡単に引き下がったのだろう?
僕にとっては都合はよかったけど、先輩の態度からは、やっぱり納得いかない。
それと去り際に言った言葉…
「何時か分かるさ。」
とは、一体何の事だろう?

「おい!」
「おい!要?」
「えっ?」
「HR始まってるぞ」そう言って青木君が耳打ちしてきたので、僕は慌てて教科書を机の中にしまった。
「お前、最近大丈夫か?なんかボーッとしてる事多いぞ。なんだ?五月病か?」青木君がコソコソと話しかけてくる。
「僕、そんなにボーッとしていましたか?」
「最近は声かけても反応しない事多いしな。今日は全校合同体育祭練習だぞ。大丈夫か?」
「ええ、大丈……えっ?そうなんですか?僕、普通の時間割持って来たんですが…」
「ほらな、やっぱり集中力ないだろ。昨日HRで言ってたじゃないか。」

あちゃ〜、ほんとに集中力無くなってるな〜。これ絶対、佐々木先輩のせいだ!
僕はそう思いながら、あれ?体操服って持って来てたっけ?
今日は体育無かったよな…そう思い、悲しくなった。

「は〜すみません。なんだか最近注意が散漫になってて、今日が合同練習だって事すっかり忘れてました。」
そう言って僕は体育教員室から出て来た。
体育教員室は、職員室とは別に、本館から離れている体育館の為に、体育館の一角に体育教師用に備えられている部屋である。
やはり体操服を忘れてきた僕の為に、青木君が体育教員室に行って、体育教師に聞いてみたら?と言う事で、予備の体操服がないかを確認する為にここに来ていた。
でも残念ながら、予備の体操服は無かった。
代わりに、職員室へ行き、担任の教師に尋ねる様に言われた。
時々、卒業生の制服や体操服が寄付されて保管されているということだった。

僕が「失礼しました」と一礼して、体育教員室を出るなり、バッタリと佐々木先輩に出会した。
「よ!要。こんな所でどうしたんだ?」
今朝会ったばかりだったので、こうも立て続けに会いびっくりしたけど、
「体操服を忘れちゃって、予備が無いか尋ねに来たんです。」と言ったら、
「あ、俺、部活用に部室に予備持ってるから、貸してやるぞ。体育教員室に用があるからちょっと待ってて。」
そう言って、「失礼しまーす」と、体育教員室へと入って行った。

「お前、体育祭合同練習日に体操服忘れるなんて、どんだけなんだ?今日居るものなんて体操服と弁当くらいなもんだぞ?」
用事を済ませた先輩が、付いて来いと僕を部室へ案内しながらそう言ってきた。
僕はほっぺをプ~ゥっと膨らませて、
「これって全部先輩のせいですよ!いきなり自分と付き合えとか何とか、僕あれから凄い悩んで眠れなかったんですよ!」というと、
「それで、付き合う気になったのか?」と聞き返してきた。
「先輩、何処まで本気なんですか?」と僕が尋ねると、
「俺は本気も本気。大本気さ。」

何だか先輩が言うと胡散臭い。
何処からどう見ても、僕で遊んでいるとしか思えない。
大体、何故僕と付き合おうと思ったのか全く分からない。

「お前、胡散臭いと思ってるだろう?」
と言われたので、え?心の声が出てた?!とびっくりしてしまった。
「お前、思った事が顔に出易いだろう?」
「あ…言われた事はありますけど…」とゴニョゴニョ話していると、
「ま、いきなり会ったことも無い奴から付き合おうなんて言われたら、そりゃ驚くな」
「だったらいきなりそんな思っても居ないような事、急に言わないで下さ~い。本当に驚きますよ!」
先輩はハハハと笑いながら、
「あながち、考え無しで言ってるわけでもないぞ?」と言うので、

本当にホント?先輩は本当に真剣に僕と付き合いたいと思ってる?
僕は先輩の事信じても良いのかな?
付き合ってみる?
付き合ったら何か分かるかな?
何かが変わるかな?

そして僕は、先輩の後を歩きながら、先輩の後姿をマジマジと見て、大きな背中だな~と思った。
腕も長いし…足も長いな…
体もスポーツをしてるせいかガッチリとしてるし…
僕なんてすっぽりと包まれそう…
少し見惚れてしまった。
そしてハッとして、あ、イヤイヤそんなことは無い!と首を振った。
矢野先輩は運動系ではないので、どちらかというと、華奢なほうだ。
身長も僕よりは高いけど、佐々木先輩程ではない。
そう言う思いをグルグルと巡らしていると、

僕の方を振り返って、「お前、一人で何百面相してるんだ?部室、もうすぐだから。」と先にある部室の一つを指差した。

やっぱり僕って思った事が顔に出るんだ。
そう先輩に指摘されて、思っていたことが顔に出ていたことに気付いて急に恥ずかしくなった。
分からないのは矢野先輩級の鈍感だけかもしれない…
そう言えば青木君も奥野さんも同じような事言ってたな~。
気を付けなくちゃ。

「入って。」
どうやらバレー部の部室に着いたようだ。
先輩は部室のドアを開けて僕を中に入るように促したので、
「失礼しま~す。」と言って中に入った。
部室の中に入ると、ブワッとすえたような臭いがして、
「うわ~クサッ!」と言って僕は鼻をつまんだ。
「ハハハ、男子の部室なんてどこもこんなもんさ。」と先輩は笑っていた。
そして、自分のロッカーを開けて、中をゴソゴソとした後、奥に置いてあった体操服を取り出して、僕に渡した。
僕がそれをジーっと見ていると、
「何だ?匂うか?ちゃんと洗ってあるぞ。」と先輩が言うので、
「あ、いや、そうじゃ無くて…一年生のカラーと違うし、ゼッケンに先輩の名前書いてあるから大丈夫かな~と思って…」と伝えると、
「大丈夫、大丈夫、結構女子なんて、好きな男子や付き合ってる男子の体操服借りてきてるしな。」と、ロッカーに出したものを終いながら教えてくれた。
「へ~。高校生にもなるとそうなんですね。でも先輩、僕は女子じゃありませ~ん。それに好きな人の体操服でもないし…」
と言ったら、一瞬、物を片す先輩の手が止まったが、カチリとロッカーのドアを閉めて、僕の方を振り返った。
そして今閉めたばかりのロッカーにもたれ掛けて胸の前で腕を組み、真面目な顔をして僕を見つめてきた。


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