消えない思い

樹木緑

第36話

あの告白の日から、持ちつもたれずつも、僕は相変わらず、矢野先輩とは以前と同じような距離を保ちつつ、仲良くしていた。

「先輩、美術部の体育祭のアーチ、会心の出来ですよね。僕、体育祭の時の皆の反応が楽しみです~。それにしてもちゃんと体育祭前に仕上がって良かったですね!」そう言って僕はマジマジと仕上がったアーチを眺めた。

アーチは竹の繊維で編みこんだものをアーチ型に型作り、そこに、体育祭の文字を発泡スチロールで形どって色を付け、
その周りには木のチップに描かれた色んな運動のポーズをとった小さな影絵をいれ、それを全体に散りばめた。
このアーチは正門の上に飾るので、かなり大きいし、重い。
飾りつけは、体育祭前日の放課後予定。
そして一番の気がかりは天気予報。
でも天気予報では、晴れ。
だが体育祭まではまだ日にちがあるので油断は禁物。
雨に濡れてしまえば、せっかくの大作もボロボロになってしまう。
でも、ここまでくれば、後は体育祭を待つばかりだった。

「本当に皆頑張ってくれたよね。体育祭が終わった暁には部で集まってお疲れ会をしようね。」最後の点検をしながら矢野先輩が切り出した。
「凄い楽しみ~。僕、こういう学校行事やクラス、部活行事に参加するの初めてなんです。
これも一重に先輩が僕の背なかを押してくれたおかげですね!
こんなに簡単に学園ライフを送れるんだったら、もっと早く色んな事に挑戦してればよかった~
なんだか人生無駄にした気分~。」そう僕が言うと、先輩が、
「要君はまだ15歳?16歳?」と年を聞いてきた。
「まだ15歳です!」と答えると、
「若い、若い、まだまだこれからだよ!高校生活も始まったばかりだしね。これから楽しい事は一杯あるよ!」
と、先輩はそう言った後、「そう言えば、要君の誕生日っていつなの?」と聞いてきた。
「あ、僕の誕生日は7月なんです。7月31日。」
「夏休みの真っ最中だね~。」
「そうなんですよ!僕、今まで友達に祝ってもらったこと無いかも?あ、でも友達もあまりいたこと無かったな~。」
と回想しながら答えると、
「今年は僕が居るよ。何か欲しい物とかある?」と先輩が聞いてきた。
「え?先輩、プレゼントくれるんですか?」
「ハハハ、余り高いものはあげれないけど、何かある?」
「え~!僕、友達にプレゼントとか貰ったこと無いです。お父さんは毎年、毎年凄いんですけどね。それも僕のいらないものばっかり!」
「ハハハ、あのお父さんだったら、目に見える様だよ。」
「でしょう?でしょう?でも全部取ってあるんですよ。ただし、全部クローゼットのボックスの中なんですけどね!」
「ま~僕があげれるものってお父さんの様にはいかないけど、本当に何でも言って良いんだよ。
僕も要君の誕生日一緒に祝いたいし!あ、でもご家族と何か約束でも入ってる?」
「いえ、家族は大丈夫なんですが、本当に良いんですか?僕、図々しくないですか?」
「何言ってるんだよ。僕と要君の仲だろ?」
そう言って先輩は目配せをした。
僕はそうですね~と考えて、
「じゃぁ、先輩の一日を僕に下さい!あ、でも一日なんて受験勉強の邪魔になりますか?」と尋ねた。
「そんなの、要君のお願いだったら、お安い御用さ。息抜きにもなるしね。」と気軽に受けてくれ、僕は誕生日が初めて待ち遠しい日へと変わった。
そして、

あ、でもその前に佐々木先輩と今週末~。と思って気が重くなった。
一体、今週末は何をさせられるのか…
買い物とか言ってたから荷物持ちか?!

「そう言えば、先輩の誕生日っていつなんですか?」と僕も先輩の誕生日が気になった。
でも、先輩の返答は…「僕は5月27日なんだ。」
ヤリ~先輩の誕生日ゲット!と思いながら、「え???じゃあ今週の日曜日じゃないですか!僕も何か…」と言いかけた時、
「じゃあ、僕も要君の一日もらえる?」と先輩が即座に聞いてきた。

あれ?日曜日?
今週の日曜日?????
ヒ~ヒ~どうしよう?????
佐々木先輩との約束も日曜日…
矢野先輩の誕生日も日曜日…
そして先輩は僕の一日を欲しがってる…
二人を比べてみて、遥かに矢野先輩の比重が重かったので、僕は佐々木先輩の約束は断る事に決めた。

「先輩、僕、今週の日曜日、急用が入って行けなくなりました。」
そう言って僕は佐々木先輩の携帯にメッセージを送った。
ピコン・ピコンと着信音を立てて、直ぐに「何の急用だ?」と返って来た。
僕はカチャ・カチャ・カチャと直ぐにメッセージを打ち返した。
「急用と言えば、急用なんです。とにかく、日曜日は急な用事が入って行けなくなりましたのですみません。
別の日に変えてもらえますか?来週の日曜日とか?」
ピコン・ピコン・ピコン
「お前の急用を土曜日にかえろ!」
カチャ・カチャ・カチャ
「そんな無理ですってば~」
ピコン・ピコン・ピコン
「その急用、浩二だろ?日曜はあいつの誕生日だからな。」
その返答が着て僕はビクッとした。
あ~ちゃ~そうだったな。
幼馴染だったら矢野先輩の誕生日位知ってるか~。
ヤバイ、この先輩はごまかせないな~と、思っていると、
また、ピコン・ピコン・ピコンと着信音がして、
「俺は要が来るまで校門の前でまってるからな!」と返って来た。
そんなぁ~横暴な~と思いながらまた、カチャ・カチャ・カチャ
「僕、行けませんから、練習終ったら帰って下さい。絶対ですよ。
もう一度言いますよ。僕を待っていても、僕は行けませんからね!」と返事をしたけど、
その後、佐々木先輩から返事が来ることは無かった。

「もう!本当に強引なんだから!明日学校で面と向かって伝えるしかないかな~。」
僕はそう思いながら、寝床に付いた。

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