消えない思い

樹木緑

第33話

佐々木先輩と話した後の、部室への足取りは嘘のように軽かった。
僕の気持ちも、少し前までのモヤモヤは消え、いつの間にかすっきりとしていた。

何時ものように渡り廊下を通りかかったところで、奥野さんとかち合った。
「赤城君、大丈夫?さっき、矢野先輩が赤城君を尋ねて教室まで来たよ。」
「え?矢野先輩が?」
「うん、なんか血相変えて教室に飛び込んできたんだけど、先輩には会えたの?なにか部で問題でも?」と、奥野さんは心配そうに聞いてきた。
僕は首を左右に振って、
「いや、ちょっと先輩と意見の食い違いがあって…でも大丈夫だよ。」と彼女に伝えた。
「本当に大丈夫?ほら、もう教室には誰も居ないから、カバン持ってきたよ。」
そう言って、奥野さんは僕にカバンを渡してくれた。
「あ、もうそんな時間だったんだね。僕、部室によって、まだ先輩が居るか確認してから帰るよ。ありがとう。」
そう言って彼女からカバンを受け取った。

そっか~先輩、あの後僕を見つけに来てくれたんだ~
そう思うと、なんだか心が温かくなった。
やっぱり先輩は先輩のままなんだな。
僕の好きなったのが先輩で本当によっかた!
そう思いながら、旧校舎の階段を3階へと上って行った。

部室までくると、部室のドアは開いたままになっていた。
僕は、ドアの端からそっと顔を覗かせて中を伺った。
そこには、矢野先輩が哀愁を背負ったような後姿をドアの方にさらけ出して座っていた。
僕は少し緊張したけど、スウっと息を深く吸って、静かに吐き、そ~っと先輩の背後に入った。
先輩は考え事をしているのか、僕が近ずいた事にも気付かなかった。
そこで僕は、ありったけの声を出して、「ワッ!」と先輩の肩を叩いたら、
先輩はビクッとして、一瞬椅子から飛び上がったようにして僕の方を向いた。
「先輩、びっくりしました?」そう言うや否や、

「要君、要君、」
先輩は僕の名を立て続けに呼び、僕にしっかりと抱きついてきた。
「先輩~そんなにギュッとしたら痛いですってば~」
と言うと、先輩は泣きそうな声で、
「君が戻って来てくれて良かったよ。もう、口も利いてくれないんじゃないかって、凄く心配したんだ。」と言った。
僕はその言葉を聞きながら、

良かった。
心配していたのは僕だけじゃ無かったんだ。
先輩だって、僕と同じ気持ちだったんだ、と思った。

先輩は僕の両手を取って、
「ここに座って。」
と自分の座っていた椅子の前に僕を座るよう促した。
そして暫くお互いを見合っていたけど、僕が先に、

「あの、先輩…僕…」
と言いかけると、
「シッ」と指を口に当て、
「僕に先に言わせて。」と先輩は言った。
そして、更に僕の手をギュッと握って、
「ずっと要君の気持ちに気付かなくてごめん。凄く傷つけていたんだね。」と、苦しそうに言った。
僕は首を左右に振って、
「気付かなくて当たり前です。僕こそあんな風に告白してすみません。」と答えた。
「要君は悪くないよ。それより僕が色んな事、要君の前で言ったり、やったりして、凄く無神経だったと思う。」
「そんな、先輩は無神経なんかじゃありません。ずっと僕の事を思って、ずっと守ってくれていました。
約束だってちゃんと守ってくれてましたし。僕の方こそ、お礼を言わなくてはいけない立場なのに…」と言うと、
「僕は見返りを求めて、要君と接していたわけじゃないよ。」と先輩が答えた。
「先輩、心配しないで下さい。そこは分かっています。」と僕が答えると、少し沈黙が続いた。

「うん、…可愛いんだ。」と先輩が切り出したので、
僕が「えっ?」と聞き返すと、
「要君の事が凄く可愛いんだ。凄く愛おしいと思う…」と先輩が言ってくれた。
「でもそれって…」
「うん、本当の弟の様に可愛くて、可愛くて、仕方ないんだ。要君の事、ほっとけないんだ。」
「先輩、分かってます。僕の気持と、先輩の気持ちは違うって事ですよね。」そう僕が尋ねると、
先輩はコクンと頷いて、
「要君の気持ちはびっくりしたけど、凄く嬉しかった。本当にうれしかったんだよ。」と言ってくれた。

そして暫く先輩は黙り込んだ後、

「でも、要君の気持には答えられないからと言って、僕から離れないで欲しい。
本当に君が大切なんだ!」と言ってくれた。
それだけで、僕は満足だった。
「僕は先輩から離れたりしません!でも…あの…直ぐに諦めるとかは無理なので、先輩を好きなままでいる事は許してもらえますか?」と精一杯のお願いをした。
「そんな許すとか、許さないとか、僕も、要君にとって、無神経な態度を取ったりすることもあると思うから、もし、知らずにそう言うシチュエーションになってしまったら、許して欲しい。」
「先輩、これは僕の我がままでお願いしてる事なので、先輩は気にしないで下さい!もし僕に好きな人が出来たら、先輩に一番にこっそり教えちゃいます!」と強がりを見せると、
「ハハハ、ありがとう。要君にそう言ってもらえて、僕も嬉しいよ。」と先輩が言ってくれたので、僕はとても救われた気持ちになった。

先輩の答えは恐らくわかっていたけど、僕は一つだけ先輩に質問した。
「先輩…一つだけ聞いても良いですか?」
「何だい?」
「先輩って今、好きな人…いるんですか?」

先輩はギョッとしたようにして僕を見て、
「…いるよ。」と教えてくれた。
そして僕はそれに、
「ありがとうございました。」と答えた。


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