消えない思い

樹木緑

第24話 居たたまれない時間

「はぁ~」今朝から僕は、ため息のつきっぱなしだったらしい、というのは、奥野さんが指摘するまで気付かなかったからだ。
「赤城君、今日は一日ため息ね?一体どうしたの?」と僕の顔を覗き込んでくる。
「え?僕、一日ため息ついてましか?」と尋ねると、
「そりゃあ、何かねぇ?」と青木君の同意を求めている。
「確かに一日中ハ~、ハ~言ってたわな。なに?恋煩いか?」と青木君はまたからかっている。
そんな青木君の頭をスパ~ンと叩いて、「あなたが言うと、喘ぎ声みたいで気持ち悪いの!」と奥野さんが突っ込んでいる。
僕はそんな二人を見て、「いや、実は今日部で新入部員と先輩たちの顔合わせがあってね、ちょっと緊張してるんだ。」と説明した。
「何をそんな緊張することあるんだ?」の青木君の問いに、
「だって、新入部員無礼講で一年生によるヌードデッサンなんてあるんだもん!そりゃ緊張するよ。」と僕がまた大きなため息をつくと、
「ハハハ面白いなそれ!俺、部活に遅れても良いから見学に行っても良いか?女子の部員、居るのか?」と青木君がからかった様に笑っている。
「いや、ここ学校だよ。いくら何でもヌードなんてないでしょ?」と奥野さんがいうと、青木君が、
「あ、でも俺たち新入部員歓迎会で裸踊りさせられたぞ!」と突っ込んでくる。
「え~ッそれって全裸?」と奥野さんが尋ねると、「いや、パンツは履いてたな。でもやっぱ、パンツ下ろそうとする先輩はどこにもいてな、いや~逃げる回るのに体力使ったよ!」と笑っていた。
「ま~体育会系ってどこもそんな乗りだからな。ま、美術部は心配しなくても、少なくとも下は履いてるんじゃないか?」と慰めようとしてくれるけど、やっぱり納得できない。
「奥野さんってどこの部活?」と僕が聞くと、
「私は料理部!」と言ってピースをした。
「へえ、料理部なの?すごいね!」
「えへ、お料理好きなの!」と彼女が言うと、青木君が束さず、
「お前、顔に似合わね~な。」と早速からかってる。
「フン!今日は私達も新入部員歓迎でケーキ作るんだけど、分けて何てあげないも~ん。」と彼女が言うと、
「あ、瞳様!天使!僕はあなたの奴隷です!」と言って彼女に跪いている。
「これだからモテないヤツって」と言って彼女は笑っていた。
何故か二人の雰囲気が、僕には少しくすぐったかった。

「新入部員って何人くらい居るんですか?」とたまたま渡り廊下で一緒になった先輩に聞いてみた。
「そうだね、ざっと数えて15人くらいかな?」と先輩が答える。
「割と少ないんですね。」と僕が尋ねると、
「美術部は毎年、割とこんなもんだよ。」と先輩が教えてくれた。
「そう言えば先輩、噂で聞いたんですけど…」と僕が始めると、
「ん?何?」
「あの…凄く言い難いんですが…」
「ん?」と言って先輩は僕の顔を覗き込んでいる。
「あの…実は…新入部員の歓迎会は一年生のヌードデッサンだと聞いて!」と早口でベラベラベラと言うと、先輩は笑って、
「ハハハ!違うよ、ヌードになるのは一年生では無くてモデルの人だよ!」と先輩が言った。
「は~っ、モデルの人ですか~」と胸を撫で下ろして、
「え?モデルの人でもそれってヤバくないですか?学校で…」と尋ねると、
「大丈夫だよ。モデルと言っても男性だし、下は着てるからね。」と先輩は笑っていた。
「はぁ、男性ですか…」と僕が言うと先輩は、「ん?女性が良かった?」とからかって言った。
僕が真っ赤になって「え?女性?え?」と真っ赤になってドギマギしていると、
「要君はウブだな~」と言って僕の頭をクシャクシャとした。
「もう、先輩ってば」と言って僕は髪を直した。

「皆さん、ようこそ美術へ。僕が部長の矢野浩二です。3年生は夏休みまでの活動となりますが、短い間宜しく。」と先輩があいさつをした。
僕はそこで初めて、3年生が夏には引退してしまうことに気付いた。
ただでさえ、学年が違うから学校では会えないのに、部活動でも会えないとなると…と気を落としていると、
「でも、僕は頻繁に顔を出してると思いますが、そこは邪険にせずよろしく!」と言うと2年生達が、
「先輩~潔く引退してくださいよ!自分たちの天下がとれないじゃないですか~」とからかった様にしてブウブウと言っている。
「まあ~君たちは殆どと言って良いほど、部室には居ないので、意義の余地は無し!」と先輩が切り込みを入れた。
そのやり取りに僕達1年生達は笑っていた。

一通りの自己紹介が終わり、歓迎会のヌードデッサンの時間がやって来た。
矢野先輩は、2年生に、1vs1で1年生についてデッサンの指導をする様に言い渡し、不足分には3年生が当たるようにと言った。
そして残りの三年生はお菓子と飲み物を買いに、コンビニへと足を運ばせた。
「え~今日のモデルになってくれる方は~」とモデルの自己紹介が終わった後、モデルの人がローブ一つを纏って輪の中央にやって来た。
そしてローブを脱ぎ、前から打ち合わせしてあったらしいポーズを中央の台の上で取った。
僕はモデルの人の斜め前に位置していた。
彼はちゃんとビキニを履いていた。
それでも僕は恥ずかしくて、目のやり場に困って下をうつ向いていたが、皆は真剣にデッサンを始めた。
それぞれに2年生が付いて早速手ほどきをしている。
僕には誰が…と思った瞬間、矢野先輩が椅子を抱えて来て僕の後ろに置いた。
僕の背中に緊張が走った。
「要君は僕が受け持つよ!」先輩はそう言って僕の後ろで、僕を両足で挟むように座り込んできた。

ドキン・ドキン

ドクン・ドクン

バクン・バクン

心拍は否応なしに早くなる。
鉛筆を持つ手が震える。
先輩が僕の耳に近ずいてきて、耳元で囁くように話し出した。
「まず、彼を良く見て。そして、全体像を学んで。かれの皮膚、筋肉、骨格、体のライン、全ての形を一纏めに捉えて。」
首をコク・コクと頷くと、
「次は体の凹凸を学んで。どこが盛り上がっているか、どこが平たんか、どこがへこんでいるか、影は何処にできているか、光はどこに当たっているか。」
「そして、構成をみきわめて、早く言えば、3Dのように立体感を掴んで。奥行、平面、それぞれのパーツの構造、どうやったら平らなキャンバスにこれらが立体化してみられるか。」
「こういったことを考えながら、まずモデルの人をしっかり見据えて学んで。」
とせんぱいは耳打ちした。
僕はコク・コク・コクと相槌して、鉛筆をギュッと握りしめた。
握りしめた僕の手の平に汗がにじり出る。
そして僕の後ろから腕を伸ばして、先輩の手が僕の手に重なった。
一瞬僕の手に緊張が走り、ビクッとなった。
先輩はただ、自分の手を僕の手に添えて、鉛筆の持ち方や描く時の角度などを実践とて教えてくれただけに過ぎなかった。
でも、先輩に恋後ゴロを抱いてる僕にとってそれは毒だった。
その間中、耳元で話す先輩の息と声が耳に絡みつき、また僕の背と右側に感じる先輩の重なった体に先輩の温度を感じて、後ろから抱きしめられているような感覚に陥り、僕の心臓は限界に達した。
座っていた椅子が激しくガタンとなり、僕はすくっと立ち上がった。
「あ、あの…僕…ちょっとお手洗いに…」と精一杯の言い訳をして部室から飛び出して行った。
そんな僕を矢野先輩と皆はびっくりして見ていた。
そして、ただモデルの人だけが平然と涼しい顔をしてポーズを取ったままの姿勢でいた。


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