消えない思い

樹木緑

第15話 自己紹介

カチッ、コチッ、カチッ、コチッ
眠れない…
時計を見ると、夜中の3時を指している。
羊の数を数えてみたが、一向に眠くならない。
読書ランプを付けて少し本を読んでみる。
緊張のせいか本の内容も頭に入って来ない。
ベッドの上をグルグルと転がってうつ伏せになり、枕に顔を埋めた。
暫く息を止めて、プハーッと息をして頭を上げる。
時計の針はもう4時を指している。
僕は観念してベッドから抜け出し、描きかけの絵の続きを描く事にした。
今描いている絵は、春休みの間、両親と行った九州旅行での写真から抜粋したもの。
九州は良かった。
温泉も堪能したし、ご飯も美味しかった。
お魚も豊富で大満足だった。
熊本の阿蘇は壮大で凄かった。
一番凄いと思ったのが熊本城!
今描いているのはそんな熊本城の風景画。
その時に取った写真を大きく引き伸ばし、写生をしている。
桜が咲いて奇麗だったな、と思い出しながら、桜の花びらを描き足していく。
一枚、一枚丁寧に重ねるように描き足していっているうちに、どんどん頭が重くなって、
いつの間にか、机の上にうつ伏せになった状態で眠りに落ちていた。

ブーッ、ブーッ、ブーッ、ブーッという携帯のアラームで目が覚めた。
あれ?と一瞬何処にいるのか分からなかった。
あ、そうだ、絵を描きながら眠ってしまったんだと思い、携帯を手に取って見ると、朝の8時だった。
両手を顔に当てて、暫く静止する。
頭の中はグルグルとしている。
今日は土曜日。
お父さんも、お母さんも家に居る。
そう、今日は矢野先輩が家にやってくる日。
今週1週間は、緊張であまり眠れなかった。
だが、昨夜が一番ひどい夜だった。
顔が腫れてなければいいけど…そう思いながらバスルームへと行き、鏡を覗き込む。
案の定、顔が腫れている。
うわー、ヤバーと思いながら、タオルを水で濡らし緩く絞った後、
それを冷蔵庫まで持っていき、お皿に乗せて中に入れた。
タオルが冷たくなるまでに今日の準備をしようと思っていたら、お母さんが起きてきた。
「あれ、要、もう起きてたの?」
「あ、おはよう、お母さん!」と、いつもの朝の挨拶と頬にキス。
家は海外に住んでいたお母さんの経験から、愛情表現は言葉と行動で示すように決めている。 
「あれ? 今日は顔が結構腫れてるね?」と、お母さんが即座に気付いた。
「どうしよう~。凄い緊張しちゃって…」と正直に気持ちを話すと、
「何をそんなに緊張してるの?」とお母さんが聞いて来る。
「だって、もし家の事がバレてお父さんや、お母さんに迷惑が掛かったら…」と半分の気持ちを伝える。
あと半分は何だか分からない緊張が走っていた。
お母さんは微笑みながら、「バレたって大丈夫だよ。要の事考えたら、何時までもこのままにはしておけないし、やっぱり僕達にとっては、要の幸せが一番最優先だから。」と言ってくれた。
そして続けて、「お父さんとも話してたんだけど、会話の状況によってはバラしちゃおうかって。」の言葉に、僕は言葉にできない思いが込み上げてきた。
下を見てうつ向いていると、
「ほら、時間なんて直ぐに来るんだから、早く今日の準備しておいで。タオル、冷蔵庫に入れてるんだろ?」と言って、お母さんは僕の背中を押した。

「あれ? ここに転がってるのは要?」
声の調子からお父さんの様だ。
「おはよう、お父さん!」そう声を掛けると、
「顔、腫れてるの?」と、タオルを顔に当てて、ソファーの上に転がってる僕を見て気付いたようだ。
「あ~…ちょっと昨夜緊張して眠れなくって。」と言うと、
「ハハハ、デート前日に緊張して眠れなかった言い訳みたいだな。」と言われ、二人して
「んん?????」となっていた。
お父さんのセリフに、少し腑に落ちないところはあったけど、お母さんの
「ほら、ほら、司君、早く準備しないと矢野君来ちゃうよ。約束は11時だったよね?司君変装するんだったら、あと1時間しかないよ。」の言葉で、
「えっ?もう10時なの?」と僕は飛び起きた。




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